『マンション高騰の真実-都市部の「非居住化」が街を壊す』
「誰がどんな目的で、好立地の高額マンションを買っているのか。」― 東京をはじめとする都市部でマンション価格の高騰が止まらず、「普通に働いている人が、住みたい街でマンションを買えない」という状況が広がっています。その背景には、建築費や人件費の上昇、供給不足だけでは説明できない構造変化があります。マンションが「住むための住宅」から「資産を保有するための商品」へと変わり、実際には住まない国内外の富裕層や法人が取得する「非居住化」が進んでいるというのです。
本日紹介するのは、大阪大学基礎工学部卒業、同大学院工学研究科修士課程修了後、ゼネコンで開発計画業務などに従事し、その後、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻で博士(工学)を取得、東京大学先端科学技術研究センター特任助手、東洋大学理工学部建築学科教授などを経て、現在は明治大学政治経済学部政策学科教授として都市政策・住宅政策を研究している野澤千絵さんが書いた、こちらの書籍です。
野澤千絵『マンション高騰の真実―都市部の「非居住化」が街を壊す』(中公新書ラクレ)
著者の野澤千絵さんは、『老いる家 崩れる街――住宅過剰社会の末路』『老いた家 衰えぬ街――住まいを終活する』『2030-2040年 日本の土地と住宅』などの著書で、一貫して日本の住宅・都市問題を研究してきた専門家です。
この本で注目すべきなのは、マンション価格高騰を単に「需要が強いから」「資材価格が上がったから」と分析するのではなく、「そもそもマンションを買っているのは誰なのか」という根本的な問いを立てていることです。
著者は登記簿などを徹底的に調査・分析し、国内外の富裕層や法人が新築だけでなく中古マンションまで取得し、転売や資産保有などを目的に「住まない住宅」を増やしている実態を明らかにしています。
本書は以下の6部構成から成っています。
1.家が「住まない買い手」のものになっていく
2.誰が、どのような目的で「住まい」を買っているのか
3.中古市場にも忍び寄る「住まない買い手」
4.非居住化がマンションと街を壊していく
5.世界の都市はどうしているのか
6.住まいを「住む人」の手に取り戻すために
本書の前半では、都市部で進むマンション価格高騰の背景と、「住まない買い手」が住宅市場に与えている影響について、以下のポイントを紹介しています。
◆ 都心や駅近など利便性の高い場所に建つマンションが、実際にそこに住みたい人ではなく、資産として住宅を取得する「住まない買い手」によって購入されるケースが増えている
◆ マンション価格の高騰は、建築費や土地価格、人件費の上昇だけでなく、住宅を居住目的ではなく「投資商品」「資産保全の手段」として取得する需要によっても押し上げられている
◆ 著者が登記簿などを調査した結果、好立地の高額マンションには国内外の富裕層だけでなく法人による取得も見られ、「誰が買っているのか」を把握することが住宅政策を考えるうえで重要になる
◆ 投資目的や資産保有目的で購入されたマンションは、取得後も必ずしも居住に利用されず、「住宅は存在しているのに、そこに住む人はいない」という非居住化を生み出している
◆ 住宅が生活の基盤ではなく金融資産として扱われるようになると、そこで実際に生活したい人の購買力とは無関係に価格が形成され、一般の実需層が住宅市場から締め出されていく
この本の中盤では、「住まない買い手」が新築マンションだけでなく中古市場にも広がり、マンションそのものの維持管理や地域社会に及ぼす影響について解説しています。主なポイントは次の通り。
◆ 新築マンションの高騰によって実需層が中古市場へ向かっても、そこにも投資・資産保有を目的とする買い手が入り込み、中古価格まで押し上げる構造が生まれている
◆ 投資目的で所有される住宅は、売却される場合でも必ずしも「そこに住みたい人」の手に渡るとは限らず、資産価値を基準に次の投資家へ売買されることで、住宅市場の金融商品化が進んでいく
◆ マンションは一戸の住宅だけで完結するものではなく、区分所有者全員で建物を維持管理する「共同体」でもあるため、所有者が実際に住んでいない住戸が増えると管理組合の運営にも影響が出る
◆ 非居住住戸が増えれば、日常的に地域を利用する住民が減り、商店、学校、地域活動、コミュニティなどを支える人口が失われ、「建物はあるのに人がいない街」になるリスクが高まる
◆ つまりマンションの非居住化は、個人が住宅を買えるかどうかという問題にとどまらず、マンション管理、地域コミュニティ、都市機能を長期的に弱体化させる可能性を持つ都市政策上の問題である
本書の後半では、住宅の投資商品化という問題に海外都市がどう対応しているのかを紹介しながら、日本で「住まいを住む人の手に取り戻す」ための政策について考察しています。主なポイントは以下の通りです。
◆ 住宅価格の高騰や海外投資家による住宅取得は日本だけの問題ではなく、世界の大都市でも共通して発生しており、それぞれの都市が独自の政策対応を進めている
◆ 海外には空き家や非居住住宅、投資目的の住宅取得などに対して税制や規制を活用し、「住宅を住むために使う」という社会的機能を守ろうとしている都市がある
◆ 日本でも住宅取得を完全に自由な市場取引だけに任せるのではなく、住宅が国民生活を支える社会インフラであるという視点から政策を考える必要がある
◆ とくに人口減少が進む日本では、住宅総数そのものは余っているにもかかわらず、利便性の高い都市部では住宅価格が高騰して住みたい人が買えないという「住宅余剰と住宅不足」が同時に発生する可能性がある
◆ これからの住宅政策では、「何戸住宅を供給するか」という量だけではなく、誰が所有し、誰が住み、どのように維持管理し、地域社会を持続させるのかという「住宅の使われ方」に踏み込んだ議論が必要になる
本書を読んで私が最も考えさせられたのは、「住宅は誰のためにあるのか」という極めてシンプルな問いです。本来、住宅とは人が住むためのものです。
しかし、投資家にとって合理的な行動の積み重ねが、都市全体にとって望ましい結果になるとは限りません。つまり、不動産価格は上がっているのに、街から生活者が消えていくという逆説が起こり得るのです。
本書タイトルにある「都市部の『非居住化』が街を壊す」とは、まさにこの現象を指しています。これは住宅問題であると同時に、通勤、子育て、人口構成、地域経済、都市の生産性にまで影響する問題でしょう。
これから重要になるのは、住宅の「数」ではなく、誰が所有し、誰が住み、どう使われているのかという視点ではないでしょうか。その意味で、本書が登記簿などを使って「マンションを買っているのは誰なのか」を追跡したことには大きな意味があります。
住宅政策を議論するなら、まず実態を把握しなければならないからです。
本書はマンション価格高騰の原因を解説する不動産本であると同時に、人口減少社会において「住宅」と「都市」をどう維持していくのかを問いかける都市政策の本でもあります。
そして何より、「住宅は投資商品なのか、それとも生活するための社会インフラなのか?」
都心や駅近マンションの購入を検討している人だけでなく、不動産投資に関心のある人、自治体関係者、そして人口減少時代の日本の街づくりを考えたい人にも、ぜひ読んでほしい一冊です。
YouTubeチャンネル「大杉潤のYouTubeビジネススクール」でも、人生100年時代の働き方、定年後キャリア、資産形成、住まいやライフスタイルなど、仕事と人生を豊かにする情報を発信しています。ぜひチャンネル登録をしてご覧ください。
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では、今日もハッピーな1日を!【4199日目】








