『台湾の本音』
「私たちは台湾をどれほど知っているだろうか。中国と台湾の関係は? 首都はどこにある? 国連に非加盟なのはなぜ?」― 日本人にとって台湾は、海外旅行先として身近であり、「親日」のイメージも強い存在です。一方で、「台湾は国なのか」「台湾人は中国をどう見ているのか」「なぜ台湾アイデンティティが形成されたのか」「台湾有事は本当に起きるのか」と問われると、意外に答えるのが難しい。そんな台湾の複雑な歴史、政治、社会、そして人々の「本音」を6つの問いから読み解いている本があります。
本日紹介するのは、1968年生まれ、上智大学文学部新聞学科を卒業、大学在学中に香港中文大学・台湾師範大学へ留学し、朝日新聞社入社後も中国・厦門大学への留学、シンガポール支局長、政治部、台北支局長、国際編集部次長、AERA編集部などを経て2016年に独立、現在はジャーナリストとして活動するとともに、大東文化大学社会学部教授を務める野嶋剛(のじま・つよし)さんが書いた、こちらの書籍です。
野嶋剛『台湾の本音』(光文社新書)
著者は、長年にわたり中国、台湾、香港など中華圏を取材してきたジャーナリストで、『台湾とは何か』『香港とは何か』『新中国論』などの著書があります。
台湾については、旅行者として外から眺めるだけでなく、留学や台北支局長としての駐在経験を通して社会の内側から継続的に観察してきました。
この本では、台湾をめぐる複雑な問題を単純な「親日・反日」「台湾・中国」「独立・統一」といった二項対立で捉えるのではなく、歴史的背景と台湾社会の変化を踏まえながら、その実像に迫っています。
本書は以下の6部構成から成っています。
1.台湾は「国」なのか
2.台湾の「歴史」はいつから始まるか
3.台湾の人々は「中国」をどう考えているのか
4.「台湾アイデンティティ」はなぜ生まれたのか
5.台湾は「親日」と言っていいのか
6.「台湾有事」は本当に起きるのか
本書の前半では、「台湾は『国』なのか」「台湾の『歴史』はいつから始まるか」という根本的な問いから、台湾という存在を理解するための前提について、以下のポイントを説明しています。
◆ 台湾を理解する難しさは、「中華民国」という国家体制と「台湾」という社会の実態が重なりながらも、完全には一致していないところにある
◆ 台湾には政府、軍、通貨、選挙制度など独立した統治の仕組みが存在する一方、国際社会では中国との関係から、その国家としての位置づけが極めて複雑になっている
◆ 台湾が国連に加盟していない背景には、1971年に国連で中国を代表する政府が中華民国から中華人民共和国へと移った歴史がある
◆ 台湾の歴史を考える際には、中国大陸との関係だけでなく、先住民族、オランダ統治、清朝、日本統治、戦後の国民党統治など、重層的な歴史を見る必要がある
◆ 「台湾の歴史をどこから始めるのか」という問いそのものが、台湾人のアイデンティティや中国との関係を考える重要な手がかりになる
この本の中盤では、「台湾の人々は『中国』をどう考えているのか」「『台湾アイデンティティ』はなぜ生まれたのか」というテーマを中心に解説しています。主なポイントは次の通り。
◆ 台湾社会における中国への意識は一枚岩ではなく、世代、出身背景、政治的立場、経済的利害などによって大きく異なっている
◆ 中国大陸との経済的な結びつきが深まった一方で、それが必ずしも台湾社会の中国への心理的接近につながったわけではない
◆ 民主化が進み、台湾で生まれ育った世代が増える中で、「中国人」より「台湾人」として自らを認識する人々が増え、台湾独自のアイデンティティが強まってきた
◆ 台湾アイデンティティの形成には、政治の民主化だけでなく、教育、言語、文化、歴史認識など長期的な社会変化が大きく影響している
◆ 中国との関係を「統一か独立か」という二択だけで捉えると台湾社会の本音を見誤りやすく、現在の自由で民主的な暮らしを守りたいという意識を理解することが重要になる
本書の後半では、「台湾は『親日』と言っていいのか」「『台湾有事』は本当に起きるのか」という、日本人にとって特に関心の高いテーマについて説明しています。主なポイントは以下の通りです。
◆ 台湾を単純に「親日国」と捉えるだけでは、日本統治時代を含む複雑な歴史や、世代ごとに異なる対日感情を十分に理解することはできない
◆ 台湾社会に日本の文化、商品、食、観光などへの好感が広く存在する一方、それと歴史認識は分けて考える必要があり、「親日」という言葉だけで台湾を理解したつもりにならない姿勢が大切になる
◆ 日本と台湾の関係には、歴史的なつながりに加えて、民主主義や自由といった価値観、経済、半導体、人的交流など多層的な結びつきがある
◆ 「台湾有事」を考える際には、中国による軍事侵攻の可能性だけでなく、米中関係、台湾内部の政治、日本の安全保障など複数の要素を冷静に見ていく必要がある
◆ 台湾有事をセンセーショナルな危機として消費するのではなく、台湾社会の人々が何を守ろうとしているのかを理解し、台湾を一人称の視点から考えることが求められる
本書を読んで私が最も強く感じたのは、台湾を理解するには「親日」という便利な言葉から、いったん離れてみる必要があるということです。
台湾には、先住民族の歴史があり、オランダ統治があり、清朝統治があり、約50年間にわたる日本統治があり、その後には中国大陸から渡ってきた国民党による統治と戒厳令の時代がありました。さらに、その後の民主化を経て、現在の台湾社会が形成されています。
この複雑な歴史の積み重ねを知って初めて、「台湾人とは誰なのか」という問いの重さが理解できるのだと思います。とくに興味深いのが、「台湾アイデンティティ」という視点です。
台湾では民主化が進展し、台湾で生まれ育った若い世代が社会の中心になっていく中で、「自分は台湾人である」という意識が強くなってきました。ここで重要なのは、これを単純に「反中国」と理解しないことです。
そして、日本人にとって避けて通れないのが「台湾有事」の問題です。近年、日本でも「台湾有事は日本有事」という言葉を耳にする機会が増えました。台湾は日本の南西諸島に近く、東アジアの安全保障において極めて重要な位置にあります。
さらに世界最先端の半導体産業を抱えていることから、台湾海峡で何らかの事態が起これば、日本経済や世界経済への影響も極めて大きくなるでしょう。
私は、海外を訪れる際には、観光名所やグルメを楽しむだけでなく、その国や地域の歴史、社会、文化、そこで暮らす人々の価値観を知ることで、旅の解像度が大きく上がると考えています。
台湾は日本から近く、旅行しやすい場所だからこそ、つい「よく知っている」と思いがちです。しかし、本書を読むと、「近いこと」と「知っていること」はまったく違うと気づかされます。
本書は、台湾旅行を考えている方はもちろん、台湾の歴史、中国との関係、日台関係、台湾有事などについて、ニュースより一歩深く理解したい方にとって格好の「台湾入門書」です。
「台湾が好き」というところからもう一歩踏み込み、「台湾を知る」ために、ぜひ読んでほしい一冊です。
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では、今日もハッピーな1日を!【4196日目】








