書評ブログ

『定年後からの孤独入門』

「しょせん、人生で遭遇する困難は後から考えると取るに足らないちっちゃなことの方が多い。9割は笑い飛ばし、1割のやりたいことだけに集中すればいい。どうせいつか死ぬのだから、臆病に生きるくらいならやりたいことを精いっぱいやって死んだことがいい。」と述べて、健康社会学700人以上のフィールドワークでわかった「定年後の孤独に負けない生き方」について書いた本があります。

 

 

本日紹介するのは、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社、気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演し、その後、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了、現在は「人の働き方は環境がつくる」をテーマに講演・執筆活動を行っている健康社会学者河合薫さんが書いた、こちらの書籍です。

 

 

河合薫『定年後からの孤独入門』(SB新書)

 

 

この本は、人と環境の関わり方にスポットを当て、人の幸福感や生きる力を研究する学問である「健康社会学」の視点から、個人を強くする環境を考察し、とくに「大量定年ぼっち社会」でいかに生きるべきかを提唱している書です。

 

 

 

本書は以下の7部構成から成っています。

 

 

1.プロローグ 人生とは会社、会社とは不条理

 

2.古戦場巡りで気付く “ ぼっち ” の世界

 

3.塩漬けおじさんが定年で失敗する理由-定年ぼっちになる人・ならない人

 

4.ぼっちは定年前から始まっている-有意味感

 

5.死ぬより怖い「ぼっち」の世界-アイデンティティの喪失

 

6.人生に意味を作る

 

7.終わりと目的

 

 

 

この本の冒頭で著者は、「定年ぼっち」とは、定年と独りぼっちをくっ付けた造語であると説明し、役職定年や定年後再雇用で、そこら中に定年ぼっちがあふれる社会が来ると予測しています。

 

 

 

著者の河合さんは、これまで20年近くフィールドワークとして、700人超のビジネスパーソンをインタビューしてきたが、今回集中的に50~60代の人たちにインタビューして分かったのが、長い間組織で働いてきた人が持つ「余熱」の存在だ、と指摘しています。

 

 

 

「余熱」とは、会社員生活での多種多様な経験を引きずり、自己防衛機能が働いて厳しい現実をオブラートに包み込む心の動きです。

 

 

 

そうした50~60代のビジネスパーソンの様子から、「定年」とは次のようなものである、と本書では定義しています。

 

 

◆ 定年=肩書が消える日

 

◆ アイデンティティを喪失し、居場所となる「古戦場」巡りをする

 

◆ 消えるアフターファイブ

 

◆ 定年とは「ルーティン」の喪失

 

◆ 会議、忘年会、ランチの価値に気づく

 

 

 

続いてこの本では、長年1つの会社で塩漬けされた「塩漬けおじさん」が定年で失敗する理由を考察しています。

 

 

 

塩漬けとは、長くいた会社の職場風土が抜けきらない状況ですが、塩漬けの一番の問題はその濃さよりも、自己認識のなさだ、と著者は言います。

 

 

 

とくに長年権力ある地位にいた人は周りが先回りしてコミュニケーションをとってくれることに慣れているので、新たな人間関係を築くのが苦手だ、と本書では指摘しています。

 

 

 

そこで著者が勧めるのが「オバちゃん力」です。オバちゃんの「ラポートトーク」共感が目的(be志向)で、相手の懐に入り込めます。

 

 

 

一方で、男性の会話は「リポートトーク」と呼ばれ、「解決」を目的(do志向)にするので、プライドのあるシニア同士の場合はぶつかりやすくなってしまうのだ。

 

 

 

本書の中盤では、「定年ぼっち」にならないためのメインテーマである「有意味感」について考察されています。ポイントは以下の通り。

 

 

◆ 家庭、仕事、健康という3つの幸せボール

 

◆ 自分を取り戻すトリガーが有意味感

 

◆ 9:1の法則(10個のうち1つに向き合って没頭すればよい)

 

 

 

さらに、孤独によるリスクを以下の通り、紹介しています。

 

 

◆ 死亡リスクが26%高い

 

◆ 血圧の上昇、ストレスホルモンの増加、免疫力の低下をもたらす

 

◆ アルツハイマー病や睡眠障害につながる

 

◆ 乳がん生存者では再発リスクが高い

 

◆ 孤独感は1日15本のタバコを吸うのと同等の健康被害をもたらす

 

 

 

なお、これまで蓄積してきた孤独研究の中で、「孤独」のプラス面は科学的には一切確認されていないと言います。

 

 

 

この本の最後で著者は、「人生に意味を作る」ことについて考察し、結びとして「今、日本が向かっているのは長く働く社会だ。」と述べています。

 

 

 

私も、拙著『定年後不安 人生100年時代の生き方』(角川新書)において、人生100年時代を展望して「長く働く」ための「トリプルキャリア」を提唱しており、心から共感します。

 

 

 

あなたも本書を読んで、定年後の孤独にいかに対応するかを考えてみませんか。

 

 

 

また、2020年4月30日に、YouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』【第80回】定年後からの孤独入門、にて紹介する予定です。

 

 

 

毎日1冊、ビジネス書の紹介・活用法を配信しているYouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』の「紹介動画」はこちらです。ぜひ、チャンネル登録をしてみてください。

 

 

 

 

では、今日もハッピーな1日を!