書評ブログ

週刊東洋経済『人口減少の真実』(東洋経済新報社)

日本の少子高齢化や人口減少に関する書籍、雑誌は数多く出ているが、ビジネスと結びつけてきちんと論じているものは少ない。

 

本書は、週刊東洋経済がその取材力を活かし、人口推計の統計を改めて再考して評価したり、そのビジネスや暮らしに与える影響について特集記事としてまとめたものだ。

 

出生率については、日本は最悪期を脱して上昇の兆しがようやく見えてきたが、それでも出産適齢期(20歳~39歳)の女性人口が大幅に減少している事実から、今後の生産年齢人口が大きく減ることは確実だ。

 

さらに、近年はっきりしたトレンドとなっている非婚と晩婚化については、戻る兆しは全く出ていないばかりか、むしろ加速している感がある。女性の高学歴化と社会進出、さらに男性の草食化が要因だ。

 

ITの進化と我々の生活への浸透に伴い、人とのコミュニケーション力は低下し、孤独感も感じにくくなっている。非婚と晩婚については、今後もますます進むだろう。

 

本書で特筆すべき論点は以下の3点だ。

 

1.首都圏における高齢者の爆発増による医療・介護不足
2.地方から女子が消えることによる急速な過疎化
3.移民政策の遅れによる外国人活用の問題点

 

とくに、首都圏周辺部における医師不足と、都心部における介護施設不足は今後、大きな社会問題になってくるだろう。職場近くの病院にかかっていた団塊世代が自宅のある首都圏周辺部に通院するようになり、病院はまったく足りない。

 

また、多摩地区以外に殆ど介護施設がない東京都内では、要介護者の急増にとても応えられない。

 

女子が消えた過疎化の事例として、千葉県銚子市が採り上げられている。人口が減り、自治体財政が厳しくなって予算カット、子育てがますますしにくくなるという、悪循環が起きている。

 

一度回り始めた負のスパイラルを元へ戻すことは殆ど不可能だろう。アベノミクスが目指す成長戦略も、都市の発展と結びつけて考えていかねば成果を上げるのは難しい。

 

移民による外国人活用と、消費面での貢献をしっかりと視野に入れて考えざるを得ないだろう。今後の事業戦略を考える全てのビジネスパーソンにとって、本書は多くの示唆を与えてくれる。ぜひ読んでほしい一冊だ。