書評ブログ

平康慶浩『出世する人は人事評価を気にしない』(日経プレミアシリーズ)

平康慶浩氏は、早稲田大学大学院ファイナンス研究科にてMBAを取得し、アクセンチュア、日本総研を経て、2012年よりフリーになって人事コンサルタントになった。

 

現在はセレクション・アンド・バリエーション株式会社の代表取締役として、大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わっている。また、大阪市の特別参与(人事)も務めている。

 

本書は、130社以上の様々な規模や業種の人事評価制度改革を行ってきた著者の経験から、「人事評価制度」 の本当の意味や昇進の仕組みを説明したものだ。

 

平康氏によれば、「人事評価制度」 とは、ビジネスというゲームのルールであり、ルールを熟知して使いこなせば、もちろんゲームで勝利しやすくなる。

 

仕事が速くて正確、率先して業績を上げる、周囲の信頼も篤い ・・・ 人事考課で高い評価を得る人が、なぜ会社の中で冷や飯を食うことになるのか。

 

「使う側」 と 「使われる側」 の壁を理解することで、組織におけるキャリアの本質は見えてくる。「人事評価制度」 の本当の意味や昇進の仕組みを知り、会社員のキャリアの築き方を学ぶことが大切だ。

 

著者によれば、経営層にまで出世していく人材の若い頃(30代後半から40代の頃)には共通点がある、という。それは、「自分の人事評価を気にしていなかった」 ということだ。

 

課長になる前まで昇進していくための評価基準は、仕事の速さや正確さや実績の数値など、プレーヤーとしての優秀さを人事評価で認められることだ。

 

しかし、課長までは何とかなっても、次長や副部長や部長にまで出世するとなると、完全に別の論理での 「評価の壁」 がある。それは、「管理する側」、言い換えれば、「使う側」 の発想になれるかどうかということだ。

 

優秀なプレーヤーが必ずしも有能な管理者ではない。スポーツの世界における 「名選手かならずしも名監督にあらず」 というのと同じだ。

 

さらに、部長から先、執行役員や取締役になれるかどうか、ということになると、さらに全く別の基準が出てくるという。使いやすい 「駒」 ではダメで、会社の危機を救えるか、発展に貢献できるか、という観点が出てくるという。

 

以上のような、なかなか会社内では社員にオープンにされていない人事評価制度の仕組みや運用の秘密を本書は以下の構成で解き明かしている。

 

1.評価が低いあの人が、なぜ出世するのか ー 「使う側」、「使われる側」 の壁
2.課長手前までは 「できる人」 が出世する ー 組織における人事評価と昇進のルール
3.役員に上がるヒントは、ダイエット本の中にある ー 経営層に出世する人たち
4.採用試験の本番は40歳から始まる ー 課長ポストからのキャリアの見直し
5.飲みに行く相手にあなたの価値は表れる ー 第二のキャリアを設計する
6.レースの外で、居場所を確保する方法 ー 組織内プロフェッショナルという生き残り方
7.「求められる人」 であり続けるために ー 会社の外にあるキャリア
8.「あしたの人事の話をしよう」

 

本書では、40歳前後で課長という立場になった時に、「人的資本の棚卸し」 をすべきだ、と説いている。それは、①学生時代、②就職~29歳、③30歳~34歳、④34歳~現在、という時期における投資とつながりを振り返って評価してみる、ということだ。

 

転職を経験した人なら分かるように、職務経歴書を作成するイメージの作業となる。この作業によって、この先のキャリア設計を行う際に様々な選択肢が見えてくる。

 

会社組織内での昇進の仕方もあるし、転職や起業という道もある。自分を主人公として、ストーリーになる要素を洗い出してみることで、自分の 「専門性」 も明確になり、自分は何で食べていくのかがはっきりしてくる。

 

また本書では、本文の途中で引用したり、考え方を組み立てたりする目的で、参考文献の参照を促している。これが計13冊の文献になるが、質の高い名著が多い。少なくとも私が読んだことのある書籍は秀逸で、このブログで採り上げた書もある。

 

最後に本書巻末に、特別付録として 「人的資本棚卸しシート」 もダウンロードできるようになっていて参考になる。自分のキャリア設計を真剣に考えるために、様々な年代のビジネスパーソンに、ぜひ本書を推薦したい。