「みずほの20年の宿痾を読み解く作業は、日本の金融史の検証そのものであり、日本の企業文化や経済社会の在り方を問うものでもある。」「みずほの迷走は、銀行を中核とする間接金融モデルの限界を示している。」と述べている本があります。
本日紹介するのは、1972年生まれ、日本経済新聞社入社、編集局流通経済部等を経て、2006年編集局経済部、金融機関、日銀、財務省などを担当、経済部次長(金融担当)、米コロンビア大客員研究員を経て米ワシントン支局主席特派員を歴任して、現在は同社金融部長の河浪武史さんが書いた、こちらの書籍です。
河浪武史『みずほ、迷走の20年』(日本経済新聞出版)
この本は、日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行の3行統合により「世界五指に入るトップバンクになる」という目標を掲げて船出した巨大銀行「みずほ」が、度重なるシステム障害、巨額の不良債権処理によって、20年間迷走し続けてきた発足からの苦闘の記録、生々しい人間ドラマも交えた検証の書です。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.みずほの宿痾
2.度重なるシステム障害
3.トップ総退陣へ
4.世界トップクラス銀行の誕生
5.統合10年たっての内なる戦い
6.新社長の船出
7.みずほ、再生への道
この本の冒頭で著者は、「みずほはなぜ変われないのかという問いを突き詰めると、回り回って、なぜ我々は変われないのかという不愉快な自問につながってくる。」「みずほ問題をただの銀行叩きに終わらせずに冷静に分析しなければ、日本の経済社会がときに陥る失敗の本質を見落とすことになる。」と述べています。
本書の前半では、「みずほの宿痾」「度重なるシステム障害」および「トップ総退陣へ」について、解説しています。主なポイントは次の通り。
◆「みずほの失敗」はバブル経済の前、「ジャパンライン株買い占め事件」が転落の起点
◆「みずほ問題」は硬直化して活力を失った現代ニッポンの組織論そのもの
◆ みずほの「言うべきことを言わない、言われたことしかしない企業風土」
◆ 銀行に絶対的な安心・安全を求めれば、コストが膨らみ経営を圧迫
◆ 4318代のATMが止まったシステム障害の原因は「コストカット」による脆弱な保守管理体制
◆ 新システム「MINORI」の本格稼働に対する過信
◆ 自発的に問題解決できない企業風土
◆ みずほの第三者委員会が指摘した「心理的安全性の低さ」
◆ みずほトップの金融当局とのパイプの乏しさが致命傷に
◆ 刷新した基幹システム「MINORI」の運営体制のお粗末さが真因
◆ 金融庁が仕掛けた異例の処分 vs. みずほの指名委員会
◆ 財務省が動いて、みずほトップ総退陣
この本の中盤では、「世界トップクラス銀行の誕生」および「統合10年たっての内なる戦い」について、以下のポイントを説明しています。
◆ 3行統合で上場企業の7割が取引先に
◆ そごう、マイカル問題で躓いたみずほ
◆ 放置されたシステム統合
◆ 米国の圧力と「竹中プラン」
◆ 震災直後の10年目、最悪のタイミングで再び大規模システム障害
◆ みずほにのしかかった「東京電力問題」
◆「ワンバンク」と反社融資問題
◆みずほ迷走の原因は、①グランドジョンがない、②兵力を統合して一貫性・整合性を確保できない、③「無謬主義」が障壁となって失敗の原因を生かす仕組みがない
本書の後半では、「新社長の船出」および「みずほ、再生への道」について考察しています。主なポイントは以下の通りです。
◆ DXでの改革が鍵
◆ 海外銀行のデジタル化戦略との競争
◆ 日本の銀行に「経営」はなく、「失われた20年」のまま
◆ 木原新社長の経営方針:➀働きがいのある会社、②企業風土の改革
◆ みずほ再生プラン4本柱:➀グリーンファイナンス、②DX強化、③グローバル金融、④社会の経済インフラ
◆ 日本全体の金融再生プランを(➀チャレンジ型の金融規制、②低金利政策の見直し、③直接金融の体制整備
この本の締めくくりとして著者は、2022年3月末でみずほ銀行頭取を退任した藤原弘治氏のが、1985年の御巣鷹山での日航機墜落事故や2005年のJR西日本福知山線の脱線事故を検証し、その後の再発防止を両社がどう進めているかを細かく分析していることを紹介しています。
そして、みずほ銀行の行内は一連のシステム障害を、航空・鉄道の歴史的事故と並ぶ大事件だと受け止めている、としています。旧第一勧業銀行やみずほ銀行で繰り返し問題対処にあたってきた藤原氏は、今の銀行に必要なのは「謙虚さ」だと常に口にしているそうです。
あなたも本書を読んで、「事なかれ主義」「減点主義」「無謬主義」という日本型大組織の弱点を「みずほの失敗」から学び、これからの経営やキャリア、人生に活かしていきませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2806日目】