「みんなの意見のまとめ方」を科学する、と銘打って、多数決の欠陥を経済学の観点から考察する本が出版されました。
本日紹介するのは、オークション方式やマッチング方式など制度設計の研究で多くの国際的な業績をあげている慶応技術大学経済学部教授の坂井豊貴さんが書いた、こちらの新刊書籍です。
坂井豊貴『決め方の経済学-みんなの意見のまとめ方」を科学する』(ダイヤモンド社)
この本は、「多数決」が民主主義社会においては最も公平な決め方とされている中で、実は「決め方」には様々な方式があり、決め方を変えると結果が変わる、ということを実例を挙げながら示している書です。
本書が依拠する学問は、「社会的選択理論」といって、数理分析で決め方を徹底精査しています。
選挙や日常の会合で、意思決定がどうもうまくできていない、人々の大意とズレる結果をよく選ぶ、と感じることがあるならば、その理由は本書の中で見つけられる、と著者は言います。
本書は以下の4部構成から成っています。
1.決め方を変えると結果が変わる
2.三択以上の投票で優れている決め方は何か
3.二択投票で多数決を正しく使いこなす
4.多数の意見を尊重すべきでないとき
本書の冒頭で著者は、選挙の例を挙げて、「政治家を選ぶこと」は、「政策を選ぶこと」ではない、としています。
例えば、大阪都構想の住民投票は、僅差で否決されましたが、現在の大阪市のあり方がそのままでいいと考えている住民が多いということではない、と言います。
その後の大阪市長と大阪府知事のダブル選挙では、「大阪維新の会」が勝利しています。つまり政治家を選ぶ選挙と、個別の政策を選ぶ直接選挙では、結果が違っているということです。
その乖離のありさまを示すのが、「オストロゴルスキーのパラドックス(逆理)」と言われるものです。
また、「票の割れ」が起こると多数決はまともに機能しない、という例として、アメリカ大統領選を挙げています。2000年のアメリカ大統領選では、民主党ゴアと共和党ブッシュが争ったが、「第三の候補」として緑の党からネーダーが参戦し、ゴアの票を奪ってブッシュが逆転勝利しました。
ブッシュが大統領になったことで、2001年の米同時多発テロ、アフガニスタン侵攻、イラク侵攻とフセイン政権打倒と続きました。結果的にイラクから大量破壊兵器は発見されませんでした。
その後、フセイン政権の残党が、イスラム過激派の組織を組成してイラクの一部を奪回し、それが母体となってIS(イスラム国)として準国家にまで拡大して世界各地でテロを起こしています。
もし、2000年のアメリカ大統領選でゴアが勝っていれば、世界の歴史は大きく変わっていた、と言われています。本書では、それくらい、「決め方」というのは大切で、結果を大きく左右する、ということです。
単純な「多数決」以外に、本書では以下の「決め方」を紹介して、結果の比較検討を考察しています。
◆ 決選投票付き多数決
◆ ボルダールール
◆ コンドルセルール
◆ 是認投票
「決選投票付き多数決」は、自民党総裁選などで取られている手法で、安倍政権が誕生する直前に行われた自民党総裁選では、第一回目の投票では石破茂氏がトップでしたが、決選投票で安倍晋三氏が逆転して総裁になりました。
「ボルダールール」とは、「1位に3点、2位に2点、3位に1点」のように配点する方式で、18世紀後半にフランス海軍の科学者ジャン=シャルル・ド・ボルダが考案し、初めて数理的な分析を与えたものです。
「ボルダールール」のもとでは、「2位」や「3位」も書けるから、「票の割れ」は起こりません。したがって、「広く支持される人」が選ばれる、という特徴があります。
また、「コンドルセルール」とは、総当たり戦による「ペア勝者」を選ぶ方式です。但し、「コンドルセルール」の難点は、「ペア勝者」が存在しないときには何も選べない、ということです。
そして、「是認投票」とは、有権者が選択肢の中からいくつでも「これは認める」とマルを付け投票し、その数が一番多い選択肢が勝つ決め方です。何個でもマルを付けてよいのが特徴です。
単純な「多数決」を含めた5つの「決め方」について、すべて結果が異なる「ナーミの反例」というモデルが本書で紹介されています。つまり「決め方」によって5通りの結果が出る、ということです。
本書を読み進めていくと、選挙の結果やそれ以外の日常の会合において、決め方が重要な理由がよく分かります。マンションの自治会や法廷での「決め方」など、興味深い事例が豊富に出てきます。
あなたも本書を読んで、「決め方」の経済学を学び、「みんなの意見のまとめ方」を考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を