『書かなきゃいけない』
「40年以上経てもなお、言えない・書けない・伝えない“何か”があるのではないか。」― 1985年8月12日に起きた日航123便墜落事故。事故から長い歳月が経った今も、事故原因や救助活動、当時の報道をめぐってさまざまな疑問や議論があります。本書は、元日本航空客室乗務員である著者が、自らの調査や関係者の証言をもとに、なぜこの問題について「書かなきゃいけない」と考えるのかを綴ったノンフィクションです。
本日紹介するのは、1969年生まれ、日本航空の客室乗務員として勤務し、1985年8月12日の日航123便墜落事故発生当時も同社に在籍、その後、事故原因への疑問から独自調査を続け、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程を修了して博士号を取得、『日航123便 墜落の新事実』などの著作を発表、現在は「日航123便墜落の真相を明らかにする会」の事務局を務めるノンフィクション作家の青山透子(あおやま・とうこ)さんが著した、こちらの書籍です。
青山透子『書かなきゃいけない』(三五館シンシャ)
本書の出発点には、故・森永卓郎さんの著書『書いてはいけない』があります。森永さんは同書で、メディアが長く触れることを避けてきたテーマとして、ジャニーズ事務所の性加害問題、財務省をめぐる財政政策への批判、そして日航123便墜落事故を挙げました。
青山さんは亡くなる直前の森永さんとウェブ会議で意見交換を重ね、特に日航123便墜落事故について、なぜ40年以上経ても議論が深まらないのかという問題意識を共有したといいます。
本書では、公式な事故調査とは異なる視点から、目撃証言、当時の報道、情報公開、救助活動などを検証し、著者が疑問を抱く点を提示しています。
したがって本書を読む際には、著者が提示する仮説や証言と、公的機関によって確認・認定されている事実とを区別しながら読む姿勢も大切でしょう。
本書は以下の4部構成から成っています。
1.疑惑はこうして始まった
2.それでもメディアは沈黙する
3.封印された目撃証言
4.墜落直前、何が起きたか?
本書の前半では、著者が日航123便墜落事故への疑問を持つようになった経緯について、以下のポイントを紹介しています。
◆ 元日本航空客室乗務員だった著者は、事故原因に疑問があるとの話を聞いたことから独自調査を始めた
◆ 遺族との出会いをきっかけに、「真相究明の旅」が本格的に始まった
◆ 著者は記録や目撃証言をたどり、事故調査で十分検討されていないと考える情報を探していく
◆ 情報公開請求などを通じ、事故に関する一次資料へ近づこうと試みている
◆ 疑問や証言を後世に残すため、「だからこそ書かなきゃいけない」という思いが本書の原点になっている
この本の中盤では、事故をめぐるメディア報道や目撃証言について説明しています。主なポイントは次の通り。
◆ 事故や救助活動をめぐる疑問について大手メディアの報道が十分ではないと問題提起
◆ 森永卓郎氏とのやりとりを通じ「報道されにくいテーマ」が生まれる構造について考察
◆ 新聞各社による記事やファクトチェックについて、著者自身の立場から検証と反論
◆「異常外力の着力点」という事故原因や墜落前後の目撃証言が考慮されていない疑問
◆ 事故原因に加え、墜落場所の特定が遅れ、夜間救助がされなかった疑問
本書の後半では、墜落直前に何が起きたのかという核心部分について考察しています。主なポイントは以下の通りです。。
◆ 複数の目撃証言などから、墜落直前の機体周辺で何が起きていたのかを再検討すべき
◆ ボイスレコーダーやフライトレコーダーが公開されない、機体一部の海からの引き上げが行われず、事故原因を多方面から科学的に検証しない姿勢に対する疑問
◆ とくに機体に加わったとされる「異常外力」について検証する必要がある
◆ 再発防止のため、日航123便事故の記録を後世へ残し、遺族が抱く疑問に向き合うべき
◆ 水俣病問題にも触れ、組織や社会が「不都合な事実」とどう向き合うのかという普遍的テーマを提示
本書を読んで最も強く感じるのは、タイトルの『書かなきゃいけない』に込められた著者の強い使命感です。著者の青山さんにとって日航123便墜落事故は、単なる過去の航空事故ではありません。
当時、日本航空の客室乗務員として働いていた自らの人生と深く関わり、遺族との交流を重ねる中で、長年追い続けてきたテーマです。
本書では、事故調査報告書とは異なる見方や、著者が重要だと考える目撃証言、救助活動への疑問などが数多く紹介されています。
その意味で、本書の価値は「これが唯一の真相だ」と結論を急ぐことよりも、長い年月が経過してもなお疑問を持つ人々がいるという事実に向き合い、情報公開や検証のあり方を考えるきっかけを与えることにあると感じました。
また、本書が問いかけているのはメディアの役割です。大きな組織や社会的影響の大きい問題を取材する際に、報道機関は何を基準に取り上げ、何を取り上げないのか。
「ファクトチェック」をする側にも、取材姿勢や検証方法について説明責任が求められるでしょう。
資料を公開し、証言を検証し、反証可能な形で議論を積み重ねていくことが大切だと思います。
本書は日航123便墜落事故をめぐる著者独自の問題提起を通して、「事実を知るとはどういうことか」「報道とは何のためにあるのか」を考えさせる一冊です。
日航123便墜落事故について関心のある人はもちろん、メディア、情報公開、組織と個人、そしてノンフィクションの役割について考えたい人にも、ぜひ読んでほしい一冊です。
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