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和田秀樹『定年後の勉強法』(ちくま新書)

和田 秀樹氏は、東大受験の勉強法を書いた本で有名な精神科医である。東大医学部を出た秀才で、文部科学省が「ゆとり教育」を推進した時に真っ向から「反対」の声を上げた論客だ。

 

当時、文科省で「ゆとり教育」の推進者だった寺脇研氏との教育論争は有名だ。結果は、「ゆとり教育」は日本の若者の学力を低下させ、ひいては日本産業の国際競争力を弱体化させる原因になった、という意見がのちに大勢となり、和田氏の見識に軍配が上がった。

 

和田氏の持論は、「受験は暗記だ!」というもの。考えて時間を使うくらいなら、問題パターンと解法を覚えてしまえ、ということだ。ただ、これはセンスのある生徒だったらできる方法で、なかなか万人には通用しない。その辺は、センスのある著者には分からない部分ではないか。

 

とくに、数学こそ暗記、という主張にはなかなか賛同しがたいが、確かに数学が格別にできる人は考えずに解法が何通りもスラスラ出てくる。やっぱり解法を覚えているのだろうか。

 

本書は、和田氏の著書では珍しく定年後の元ビジネスマンに向けて書かれている。私がなかなかいいなと思ったのは、アウトプットを勧めている点。若いころはインプット中心だが、定年後の勉強法はアウトプットが効果的だ。

 

「定年前後の勉強法のポイントはゆとり教育的な発想法が大事だ。」と説いているのは印象的だ。創造性重視というわけだ。

 

最終章は、「人生を充実させる勉強法」と題して、起業や心理学の勉強、宗教・歴史・哲学の学び直しを勧めている。読書術についてもアドバイスしていて、「本は全部読まなくていい」ということだ。

 

定年後の読書では、時間があるからといって全部を読むのではなく、本の一部を読むだけの方が、本の趣旨が明確になるのだそうだ。

 

定年後に勉強したい元気なビジネス経験者にとって、大きな示唆を与えてくれる良書としてお薦めしたい。