理論と現実とのずれは、「西欧」の場合にも「日本」の場合にも当然みられるが、そのずれのあり方が問題なのである、いいかえれば、抽象された理論の妥当性・有効性の問題である、と述べて、現代の日本社会を分析している本があります。
本日紹介するのは、1926年東京生まれ、東京大学文学部東洋史学科卒業、ロンドン大学で社会人類学を専攻、東京大学名誉教授、日本学士院会員で、2021年に94歳で逝去した中根千枝さんが書いた、こちらの書籍です。
中根千枝『タテ社会の人間関係』(講談社現代新書)
この本は、現代の日本の社会現象を材料として、社会人類学でいう「社会構造」の比較の上で、日本の社会がどのように位置づけられるかという社会構造の分析に関する新しい理論を提出しようとするものです。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.序論
2.「場」による集団の特性
3.「タテ」組織による序列の発達
4.「タテ」組織による全体像の構成
5.集団の構造的特色
6.リーダーと集団の関係
7.人と人との関係
この本の冒頭で著者は、目的とするところは、「日本社会の構造を最も適切にはかりうるモノサシ(和服における「鯨尺」)を提出することになる」と述べています。つまり、社会人類学でいう「社会構造」の探求ということです。
本書の前半では、「場による集団の特性」について解説しています。主なポイントは次の通りです。
◆ 個人の「資格」(属性)と「場」(所属)により社会集団(社会層)が構成される
◆「場」を強調する日本社会(職業より会社名を重視)
◆ 集団認識のあり方は、伝統的な「家制度」の影響
◆ 成員の同質性の上に、「一体感」と「内部組織」が日本の特徴
◆ 家長権の実態は「家」のもつ結束力
◆ 日本企業は、家族ぐるみの雇用関係
◆「ウチ」「ヨソ」の意識が強い
◆「ヨソ者意識」が生む非社交性
◆ 直接接触的な人間関係
◆ 所属集団は一つとする「単一社会」
この本の中盤では、「タテ組織による序列の発達」「タテ組織による全体像の構成」および「集団の構造的特色」について、以下のポイントを説明しています。
◆「タテ組織」の象徴「親分・子分」
◆ 序列意識には能力主義もたじたじ
◆ 終身雇用制と根強い能力平等観
◆ 能力とは無関係の生年・入社年・学歴
◆ 日本人は意見の発表にまで序列意識
◆ 序列的につながる日本の教師と学生
◆ 労使は対立ではなく並立の関係
◆ 日本の人間平等主義は能力差を認めない弊害
◆「ヨコ組織」に弱い日本社会の悲劇
◆ 日本の「ワンセット主義」は過当競争を招く
◆ 開放的な「タテ組織」、排他的な「ヨコ組織」
◆ リーダーはひとりに限られ、交替が困難
◆ 必然的な派閥関係
本書の後半では、「リーダーと集団の関係」および「人と人との関係」について考察しています。主なポイントは以下の通り。
◆ リーダーの行動は、直属幹部との力関係に制約
◆ リーダーは集団の一部分
◆ リーダーは他の諸社会に比べ、圧倒的に年長者
◆ 集団の実力は、集団の内部構造による
◆「タテ組織」には、契約精神が欠如
◆ 日本のリーダーの主要任務は和の維持
◆ 日本は、「二君にまみえず」
◆ エモーショナルな「タテのつながり」(論理より感情が優先)
この本の締めくくりとして著者は、「日本人の社会生活における非論理性(相対的関係)にこそ、日本社会の分析のむずかしさはある」と述べています。
また、日本社会の「単一性」こそ、本書で展開した人と人、人と集団、集団と集団、の関係設定のあり方を決定する場合に、重要な基盤となっているもの、と続けています。
この本は、昨日付のブログ記事で紹介した高橋俊介著『キャリアをつくる独学力ープロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』(東洋経済新報社)において、基本的な考え方として紹介されていたものです。
あなたも本書を読んで、「単一社会の理論」と「タテ社会」の日本の社会構造について考察し、「キャリア自律」に活かしてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2894日目】