書評ブログ

『失敗しない定年延長「残念なシニア」をつくらないために』

労働人口の急激な減少など日本社会の大きな変容を背景に、「定年延長」が企業経営の趨勢を決めかねない重要な課題の一つになる、と提唱している本があります。

 

 

本日紹介するのは、1973年生まれ、慶應義塾大学法学部を卒業、株式会社デンソーに入社し、17年間人事部門に在籍、その後事業部門の事業企画管理職を経て、2016年コンサルタントにキャリアチェンジ、現在は三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社コンサルティング事業本部組織人事戦略部長・プリンシパル石黒太郎さんが書いた、こちらの書籍です。

 

石黒太郎『失敗しない定年延長「残念なシニア」をつくらないために』(光文社新書)

 

 

この本は、事業会社に20年以上在籍し、人事キャリアでの海外駐在と管理職経験、そしてビジネスの現場を取り仕切った実績を有するコンサルタントという著者の経歴をベースに、日本企業のあるべき定年延長について、現場目線で紹介している書です。

 

 

本書は以下の8部構成から成っています。

 

1.まえがき 安易な定年延長が会社を潰す

2.「残念なシニア」が大量発生した理由

3.少子化時代に不可欠なシニア活用

4.シニアを正しく活かす「雇用ジェロントロジー」

 

5.失敗しない定年延長

6.日本経済を衰退させる会社従属型雇用

7.「ジョブポートフォリア・マネジメント」へのシフト

8.あとがき

 

 

この本の冒頭で著者は、「定年延長」が企業経営の趨勢を決める理由として、次の4点を挙げて説明しています。

 

◆ 人材不足の解消にはシニアの活用が不可欠

◆ モチベーションを失ったシニアが急増

◆ 人生100年時代を見据えた更なる高齢者雇用が国際化の見込み

◆ バブル入社組の60歳到達が目前

 

 

続いて、職場をさまよう「残念なシニア」が大量発生していること、および「残念なシニア」の3分類を次の通り紹介しています。

 

◆ 迷惑系の残念なシニア

◆ 勘違い系の残念なシニア

◆ 無力系の残念なシニア

 

 

そして、社員が残念なシニア化してしまう大きな理由は、定年後再雇用の仕組みによるモチベーションダウンにある、と分析しています。

 

 

多くの日本企業は、1990年前後に新卒採用した層の比率が高く、今後数年でこの層が一気に60歳を迎えシニアが急増する見込みで、約7割の中高年社員が自己学習すらしていないことが問題だと著者は指摘しています。

 

 

本書の前半では、少子化時代に不可欠なシニア雇用およびシニアを正しく活かす「雇用ジェロントロジー」という考え方を提唱・説明しています。

 

 

「雇用ジェロントロジー」とは、ジェロントロジー(老年学)の考え方に基づいて、シニアの体力・知力や心の変化が就労にどのような影響を及ぼすかを考えることで、企業におけるシニア雇用のあり方を模索することを指しています。

 

 

例えば、データでシニアの体力の変化を、①歩行速度、②全身持久力、③筋力、④敏捷性、⑤視力、⑥聴力、⑦平衡感覚の観点から「健康度の変化」として分析しています。

 

 

次に、「知力の変化」については、結晶性知能(言語能力・理解力・洞察力・創造力など)流動性知能(直感力・法則を発見する能力・処理能力など)に分けて分析し、加齢によりとくに流動性知能が低下することが分かっています。

 

 

但し、結晶性知能、流動性知能ともに60歳代は25歳時点よりも高い水準にあるという研究結果があり、記憶機能の低下をカバーしているのです。

 

 

さらに、「心(価値観・性格)の変化」については、「若い心」と「老いた心」の2種類があり、前者は「何を新たに獲得できるか」という「ゲインの最大化」に関心を持つのに対し、後者は「どのようにして現状を保つことができるか」という「ロスの最小化」に関心を持つ、と言います。

 

 

また加齢による性格の変化に関しては、人間の性格を心理学的に分析する際の5つの因子(ビッグファイブ理論)について、以下の通り分析しています。

 

1.外向性(バイタリティ、前向きな感情、人懐っこさ) ⇒ 低下

2.経験への開放性(新しい物事への関心、多様性の受容)⇒ 低下

3.神経症傾向(不安感、敵意、衝動性)        ⇒ 向上

4.誠実性(真面目さ、丁寧さ、慎重さ、責任感)    ⇒ 向上

5.調和性(共感性、許容性、謙虚さ)         ⇒ 向上

 

 

とくに「外向性」に関して、中高年男性は周囲から声を掛けづらい雰囲気を無意識に出していることが多く、普段から笑顔を作るべきだ、と著者は指摘しています。

 

 

この本の後半では、失敗しない「定年延長」や、日本型雇用システム(会社従属型雇用)のガラパゴス化について考察しています。

 

 

本書の最後では、日本型人材マネジメント(会社従属型)からジョブ型人材マネジメント(職務請負型)に一足飛びに移行するのではなく、複数の人材マネジメントを組み合わせることによって多様な人材を処遇し、受け入れられるようにする「ジョブポートフォリオ」の活用を提言しています。

 

 

あなたも本書を読んで、「残念なシニア」をつくらないための「定年延長」について、しっかりと考え、自ら実践してみませんか。

 

 

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では、今日もハッピーな1日を!【2502日目】