「バブル崩壊後、未曾有の就職難が社会問題となった。」「不況がこの世代の人生に与えた衝撃は大きい。結婚・出産など家族形成への影響や、男女差、世代内の格差、地域間の移動、高齢化に伴う困窮について検討し、セーフティネットの拡充を提言する。」と述べている本があります。
本日紹介するのは、1979年生まれ、2001年東京大学経済学部卒、2009年コロンビア大学大学院博士課程(経済学)修了、Ph.D.大阪大学講師、法政大学准教授、横浜国立大学准教授を経て、2016年より東京大学社会科学研究所准教授、20年4月より東京大学社会科学研究所教授(専門は労働経済学)の近藤絢子さんが書いた、こちらの書籍です。
近藤絢子『就職氷河期世代ーデータで読み解く所得・家族形成・格差』(中央公論新社)
この本は、世代全体をカバーする大規模な統計データを用いて就職氷河期世代の動向を客観的にとらえ、個人の経験に基づいて語られがちな通説を、客観的に検証することに加えて、女性の働き方の変化や、地域間移動など、これまであまり注目されてこなかった側面にも切り込んでいる書です。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.就職氷河期世代とは
2.労働市場における立ち位置
3.氷河期世代の家族形成
4.女性の働き方はどう変わったか
5.世代内格差や無業者は増加したのか
6.地域による影響の違いと地域間移動
7.セーフティネット拡充と雇用政策の必要性
この本の冒頭で著者は、「本書では、1993~1998年卒を『就職氷河期前期世代』、1999~2004年卒を『就職氷河期後期世代』と定義して、区別する。」と述べています。
本書の前半では、「就職氷河期世代とは」および「労働市場における立ち位置」について以下のポイントを説明しています。
◆ 就職氷河期前期世代は「団塊ジュニア世代」と重なり、「梯子を外された」ショック
◆ 就職氷河期後期世代は、雇用や年収の数値がさらに悪くなっている
◆ ポスト氷河期世代(2005~2009年卒)やリーマン震災世代(2010~2013年卒)の年収や非正規割合は氷河期後期世代と変わっていない(回復していない)
◆ ひきこもり、ニートや未婚化・少子化への影響、介護、老後問題をデータで分析
◆ 就職氷河期世代、とくに後期世代は、上の世代に比べて、卒業後長期にわたって雇用が不安定で年収が低く、年収格差は卒業後15年経っても解消しない
◆ 氷河期後期世代は、前期世代より雇用不安定で年収が低く、上の世代と前期世代との格差よりも、前期世代と後期世代の格差の方が大きい
◆ 氷河期後期世代よりも下の世代は、景気回復期に卒業した世代も含めて雇用が不安定で年収が低いまま
◆ 氷河期世代を境に、就職した年の景気の長期的な影響(瑕疵効果)が弱まった
この本の中盤では、「氷河期世代の家族形成」および「女性の働き方はどう変わったか」について解説しています。主なポイントは次の通りです。
◆ 氷河期後期世代は、そのすぐ上の団塊ジュニア世代よりも、40歳までに生む子どもの数は多かった
◆ 若年期の雇用が不安定だと、男性も女性も結婚確率や子どもの数が減る
◆ 世代全体で見ると、子どもの数と新卒労働市場の状況には相関関係はない
◆ 就業率や正規雇用比率は、世代間格差は解消したが、フルタイム雇用者の年収格差は男女とも縮小していない
本書の後半では、「世代内格差や無業者は増加したのか」「地域による影響の違いと地域間移動」および「セーフティネット拡充と雇用政策の必要性」について説明しています。主なポイントは以下の通りです。
◆ 就職氷河期以降、所得分布の下位層の所得がさらに下がり、世代間格差が拡大
◆ ニートや親と同居する無業者・非正規雇用者、孤立無業者の割合は若い世代ほど増えている
◆ 就職氷河期のインパクト自体に地域差があり、地域間の賃金格差が拡大した
◆ 低年金・低貯蓄からくる老後の困窮
この本の締めくくりとして著者は、「本書は、就職氷河期世代を中心に、世代別の雇用や経済状況、家族形成、男女間格差などについて、データを用いて客観的にとらえることを心掛けてきた。」と述べています。
あなたも本書を読んで、「就職氷河期世代」やそのあとに続く世代の所得、家族形成、格差について、改めて考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【3565日目】