「なぜ、いまになって、ひきこもりの高年齢化や8050問題が深刻になってきたのでしょうか」と問いかけ、人口構造や若者の雇用環境の変化など複数の要因が重なり合い、深刻な問題を生み出すタイミングをいま迎えているのではないか、と仮説を述べている本があります。
本日紹介するのは、名古屋大学大学院博士後期課程単位取得修了、社会学の立場から児童生徒の不登校、若者・中高年のひきこもりなど、社会的孤立の課題について調査・研究を行う愛知教育大学教育学部准教授の川北稔さんが書いた、こちらの書籍です。
川北稔『8050問題の深層-「限界家族」をどう救うか』(NHK出版新書)
この本は、平成の時代、「ひきこもり」「ニート」「フリーター」といった社会問題を表す新しい言葉が生まれたことに対して、国が若年者の就労支援などの対策を行ってきましたが、未解決の課題が多く、そうした問題の実態を解明し、私たちはどう向き合っていけばよいのかを提示している書です。
本書は以下の6部構成からなっています。
1.はじめに
2.終わらない子育て
3.ひろがる社会的孤立と8050問題
4.ひきこもり支援の糸口
5.限界家族をどう救うか
6.おわりに
この本の冒頭で著者は、「ひここもり」とは、社会に参加することがなく、家庭を中心に生活している「状態」のこと、と説明しています。
厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」(2010)では、ひきこもりを「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。」と定義しています。
これまで、ひきこもりと言えば、15歳から39歳までの若年層を指して約54.1万人と推計されていましたが、2019年3月に内閣府が39歳から64歳までのひきこもり状態にある人の調査結果を発表し、全国で61.3万人という推計になりました。
つまり、わが国には100万人を超えるひきこもり人口があることになります。
ひきこもり状態にも3段階くらいの差があり、その状態は多様化していますが、長期間にわかるケースも多く、ひきこもり本人の高年齢化や、親と同居している場合には親の高齢化や介護、さらに親との死別による経済的問題も発生しています。
また、ひきこもりに至るきっかけも多岐にわたり、いじめや不登校、受験や就職活動での失敗、何十年も会社勤めをしていた人がリストラにあう、夫の転勤で知人のいない地域に移ったなど、様々なことが契機になっています。
次に、ひきこもりの背景について、厚生労働省によれば、以下の3つに分かれる、ということです。
◆「生物学的側面」(統合失調症、うつ病、強迫性障害、パニック障害などの精神疾患)
◆「心理的側面」(ストレス、緊張感、不安感、優等生の息切れ)
◆「社会的側面」(進学や就職といった人生の節目に想定コースから外れる)
さらに本書では、ひきこもりが始まったときからの事例を紹介し、「過去の子育て」を悔やむ親の苦悩を記しています。
続いて、ひきこもりによる社会的孤立や、50代のひきこもりと80代の親が同居して共倒れになる「8050問題」、その予備軍とも言える、40代と70代の親の同居である「7040問題」を取り上げ、解説しています。
こうした子ども世代の苦境が大きく表れる層として、バブル崩壊の初期(1991年度~2003年度)に大卒で新卒採用になった「就職氷河期世代」と呼ばれる、現在の40代が挙げられます。
1991年度新卒の層が、そろそろ50歳に到達し始めており、これから「8050問題」は本格的に増加し、決して一過性の減少にとどまらない、と著者は危機感を述べています。
現在、40代半ばにあたる団塊ジュニア世代(1971年~1974年生まれ)は、まさにこれから「8050問題」の対象に入ってきますが、その母集団が格段に大きいため、社会問題としてクローズアップされるのは確実でしょう。
この本の後半では、ひきこもり支援の糸口となる事例の紹介や、支援のあり方が論じられていて参考になります。
また、過疎化が進み、65歳以上の人が50%を超える集落は「限界集落」と呼ばれていますが、社会に中には共倒れ寸前という「限界家族」が多く隠れていて、社会から孤立しているのではないか、と本書では指摘しています。
その背景にあるのは、平成の時代を通じて進んできた「家族の縮小」、とりわけ主流の世帯が「単独世帯」になったことも影響しているでしょう。
一方で、平成の時代は「家族重視」、「家族の中では子ども重視」の意識が高まっていて、「親子関係の長期化」の傾向もみられます。
「成人し、かつ親が存命」である人を「成人子ども」と定義すると、1950年に「成人子ども」は総人口の29%であったものが、2000年には約半数まで増加しています。
生まれてから親を看取るまでの「親子共存年数」は長期化していて、博報堂生活総合研究所の推計では、およそ60年に達していて、多くの大人は人生の3分の2以上を「子ども」として過ごすことになっています。
著者の問題提起として、従来は子どもの就職や結婚などにより、「親子の関わり方」についても区切りや一定の距離感がつかめてきたが、就職難や未婚化により、「子離れ・親離れのタイミング」が難しくなっていること、を挙げています。
本書の終盤では、「なぜ家族は閉ざされるのか」「子育てに専念する社会の始まり」を考察する中で、「平成の家族が直面した矛盾」を描き出しています。
この「8050問題」は、「団塊世代の親と団塊ジュニア世代の子ども」の組み合わせで、今後数年間~十数年間にわたり、急激に増加して大きな社会問題になることは、まず間違いないでしょう。
私が考える処方箋は、以下の4つの基本スキームから成る公的支援制度による社会復帰プログラム(訓練施設)の設立です。
◆ ひきこもり100万人を対象にして、一括雇用して、全寮制居住型で介護専門職員として職業指導訓練
◆ 指導訓練の基本は、早寝早起き(太陽光線を十分に浴びてセロトニンを作る)と運動訓練による規則正しい生活習慣の確立
◆ 介護技術とIT技術を習得し、AI付きロボットや他の介護職員、施設入居者とのコミュニケーション力を養成
◆ 訓練スタッフは、ケアマネージャーなど介護専門資格者のほか、自衛隊経験者、瞑想指導できる僧侶など宗教関係者、心理カウンセラー、精神科医師、看護士、教育関係者、コンサルタント等から成る専門家集団
ここに税金を10兆円単位で投入すれば、介護・医療・生活保護にかかる国費負担を劇的に減らせるのではないか、と推計しています。
また、タックスヘブンを使って、法人税を大幅に減額している大手IT企業などに、タックスヘイブン活用メリットの半額を「デジタル税」や「個人情報活用税」などで強制出資させる法案を議員立法で通して、ほんとうの社会貢献をしてもらったらいかがでしょうか。
あなたも本書を読んで、これから大きな社会問題となる「8050問題」について、真剣に考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!