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稲盛和夫『アメーバ経営』(日経ビジネス人文庫)

稲盛和夫氏は京都の町工場から世界的なハイテク企業になった京セラの創業者だ。ゼロから1兆円企業を作り上げた伝説の経営者だ。

 

ベンチャー企業の育成にも情熱を注ぐ稲盛氏は、独占企業だったNTTに対抗して、KDDIを立ち上げ、これも日本を代表する優良企業に育て上げた。

 

この稲盛氏の経営哲学を象徴するものが、「アメーバ経営」という経営手法だ。本書は、その真髄を伝える書籍で、経営をする立場にある人はぜひとも読んだ方がいい。

 

アメーバ経営の核心は、①工程別の各アメーバ組織による独立採算制と、②全員参加経営、の2点だ。とくに、製造業では工程が細かく分かれているが、それぞれを「アメーバ」と呼ぶ独立会社に見立てて経営する。

 

それぞれが、独立した会社なので、つねに採算を意識した仕事、すなわち経営を行うことになる。きめ細かいコストダウンや徹底した改善を進めていくのだ。

 

どの工程にも無駄がなくなり、効率性が追求されていくと、会社全体として見れば大きな収益を上げる組織に変貌していく。つねに進化するアメーバのように、会社組織が高収益体質に革新される。

 

工場現場で作業をする1人ひとりが、全員、採算を意識した仕事をするようになる。まさに、全員参加経営なのだ。改善のネタは現場にいくらでもある、というのが稲盛氏の哲学。

 

この「アメーバ経営」の真髄が発揮されたのが、請われて再建の舵取りをを託されたJALの経営だった。ナショナル・フラッグとして、まさか倒産するとは夢にも思わなかったJALの役所・官僚体質。

 

会社更生法を申請した後、稲盛氏はJALに乗り込んで「アメーバ経営」を骨格とする再建計画を策定する。JALの業務を工程ごとに細かく小集団に分けて、徹底的な独立採算の仕組みを導入した。

 

大きな無駄が短期間で炙り出され、劇的なコストダウンと業務改善が進んだ。JALの業績は短期間でV字回復を成し遂げ、再上場を果たす。パイロット出身の植木・新社長にバトンを渡して稲盛氏は経営から引いた。

 

稲盛氏の経営哲学が凝縮されている「アメーバ経営」の全てが分かるのが本書だ。ぜひ、経営をめざす全ての人に読んで欲しい究極の一冊だ。