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ジョージ・フリードマン『100年予測』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ジョージ・フリードマン氏は、1949年ハンガリー生まれで、ニューヨーク市立大学卒業後、コーネル大学で政治学博士号を取得。ルイジアナ州立大学地政学研究センター所長を経て、独立した。

 

1996年に世界的インテリジェント企業ストラトフォーを創設、チェアマンを務める。同社は、政治・経済・安全保障に関わる独自の情報を、アメリカほか各国の政府機関、世界中の一流企業に提供し「影のCIA」の異名を持つ。

 

本書の狙いは、未来がどのようなものになるのか、その感触を伝えることにある。広い意味での重要な動向ー地政学、科学技術、人口動態、文化、軍事における動向ーをつきとめ、今後起こり得る重大な出来事明らかにする。

 

本書は『100年予測』というタイトルの通り、きわめてスケールの大きな予測を行い、2100年という未来に向けて、主に地政学の見地から、説得力を持った、理論的な予測を描き出している。

 

とくに、アメリカという、21世紀を支配する超大国の発想法や世界戦略がよく理解できる。本書の構成および主要な論点を以下に示そう。

 

1.アメリカの支配は始まったばかりであり、21世紀はアメリカの時代だ。
2.世界の自由貿易にとって決定的に重要な世界の海洋をアメリカ海軍が支配していることが支配力の源泉だ。
3.1991年12月にソ連が崩壊して冷戦が終結し、アメリカ一国支配が始まり、イスラム地域は不安定になった。
4.アメリカの対テロ戦争の目的は、イスラム世界を混迷させることだ。
5.人口爆発は終焉し、世界の人口構造は大きく変化する。
6.アメリカでは、人口減少とコンピュータが新しい世界を作っていく。
7.次の紛争は、①東アジア(中国・日本)、②旧ソ連圏、③ヨーロッパ、④イスラム世界(トルコ)、⑤メキシコのどこかの地域で起こる。
8.2020年代に、中国は分裂し、ロシアは崩壊する。
9.アメリカは50年周期で経済的・社会的危機を迎えて変換してきた。

 
①1776年建国(ワシントン)~(アダムズ)  <建国者時代>
②1820年(ジャクソン)~(グラント)      <開拓者時代>
③1876年(ヘイズ)~(フーヴァー)      <田舎町時代>
④1932年(F.ルーズベルト)~(カーター)<工業都市時代>
⑤1980年(レーガン)~            <郊外中産階級>
⑥2030年前後(?)~             <恒久的移民階級>

 
10.中国、ロシアの次に勢力を拡大するのは、日本、トルコ、ポーランドで、やがてアメリカにとって危機に感じる。
11.2040年代、日本とトルコは同盟を結び、アメリカは両国を締め付け、ポーランドを支援する。
12.21世紀半ば、日本とトルコ、アメリカは戦争へ向かい、宇宙が戦場となる。
13.2060年代に宇宙の商業利用を進めるアメリカは黄金時代を迎える。
14.2080年代、アメリカは過剰な移民という問題に直面し、経済大国のメキシコがアメリカの覇権に挑戦する。

 

本書は、予測スケールの大きさや、地政学をベースとする論理性において、予測に関する類書を圧倒する。将来を予測する必要に迫られている経営者、指導者、全てのリーダーに本書を推薦したい。