エリック・ボブズボーム氏は、20世紀後半を代表するイギリスの歴史家だ。本書は、従来のヨーロッパ中心の歴史観とは一線を画した、深い洞察のもとに20世紀という時代を歴史の中に位置づけた古典的な名著だ。
本書は、19世紀を1789年のフランス革命から1914年の第一次世界大戦までを括った 「長い19世紀」 と定義し、1914年の第一次世界大戦の勃発から1993年のソ連邦の崩壊までを 「短い20世紀」 と定義することで、時代をひとつの 「意味のあるまとまり」 として捉える新たな歴史観を世に示した。
本書の構成は、以下の3部から成る。
1.破局のの時代 (1914年~1945年)
2.黄金時代 (1945年~1973年)
3.危機の時代 (1973年~1991年)
1989年のベルリンの壁崩壊と1991年のソ連邦の解体をもって、冷戦は終結し、新たな時代に入っている。今後の世界の歴史を踏まえて検証を重ねなければ、「短い20世紀」 を本書のような定義にすべきかどうかは何とも言えない。
ただ、19世紀と20世紀の歴史観については、ボブズボームが提示した 「意味のあるまとまり」 は、多くの支持を受けている。そうした意味で、歴史家のみならず、本書は時代を読み解くための古典としてぜひ、目を通しておくべき一冊だろう。
私は、佐藤優氏の 『知の読書術』 (集英社インアターナショナル)において、本書を推薦していたことから、本書を手に取ることになった。本書は、ロシアについては1章分以上の多くを割いているのに対し、アメリカについては、いくつかの章で断片的に触れているに過ぎない。
著者が言うように、従来のヨーロッパ中心の歴史書ではないものの、アメリカやアジア太平洋の重要性を鑑みると、まだバランスは大きくヨーロッパに傾斜したものだ。
中東のイラクやイランに代わって、今やウクライナ情勢がロシアを含む世界の火薬庫になりそうな国際関係の中において、本書も持つ歴史観の重要性がますます高まっているような気がしてならない。
今後の世界の潮流を予測する上で、ぜひ本書を一読し、著者の歴史観を理解しておくことを薦めたい。