佐藤優氏は、元外務省主任分析官で、紆余曲折の人生の末、現在は作家として数多くの書籍を出版して活躍している。たいへんな読書家として知られており、書評や読書関連の著書も多い。
佐藤優氏の著書は今回初めて本ブログで紹介するが、この本は現代の世界情勢を分析するには、極めて示唆に富んだ名著だ。リベラルアーツを重視すべきと言う論調は、世の中の変化が速く激しくなった今日、ますます勢いを増している。
本書で佐藤氏は、ウクライナ情勢をはじめ現在の世界の潮流を読み解くには、きちんとした歴史観が必須だとしている。本書は二部構成になっていて、第一部が「危機の時代」に備えよ、という歴史観の話。
第二部が、「知のツール」の活用法として、現代の読書のあり方や新しいツールの有効な活用法を紹介している。まず第一部は、以下の4つの構成となっている。
1.「世界大戦」 は終わっていない
2.はたして 「近代」 は存在したのか
3.「動乱の時代」 の必読書
4.「反知性主義」 を超克せよ
とくに私が感銘を受けたのは、イギリスの歴史学者エリック・ボブズボームが提唱する「長い19世紀」と「短い20世紀」という考え方だ。
「長い19世紀」とは、1789年のフランス革命から1914年の第一次世界大戦が勃発するまでの時代、「短い20世紀」とは、1914年からソ連が崩壊する1991年までを指している。
前者が「啓蒙思想の時代」、すなわち理性を用いて知識を増やし、科学技術を発展させれば理想的な世の中が実現する、という考え方だ。しかし、政治的には民主主義と自由主義、経済的には自由経済を基盤とする資本主義が発展したが、最終的に第一次世界大戦という、「大量殺戮・大量破壊」へと帰結した。
ボブズボームは、ここに「時代の切れ目」を見出した。19世紀の市民革命と産業革命(=二重革命)の時代、資本の時代、帝国の時代から、破局の時代・黄金の時代・危機の時代の三期に分かれる 「短い20世紀」へと時代は変わっていく。
ボブズボーム著 『20世紀の歴史 ー 極端な時代』は、その「短い20世紀」を詳しく分析している。読んでお楽しみとしておこう。もはや新刊書を手に入れることは困難で、中古本か図書館での入手をお薦めする。
過去の歴史を検証する上で、ボブズボームのように時代を「意味の固まり」として捉える見方はとても重要だ。
本書の後半の第二部は以下の4つから成る。
1.私が電子書籍を使うわけ
2.教養としてのインターネット
3.「知の英語」 を身につけるには
4.現代に求められる知性とは何か
巻末には参考推薦図書の一覧も掲載され、本書はいろいろな意味で、現代に必須となっている「教養」の入り口になる書だ。全ての人々にぜひ、一読を薦めたい。