「思い描いた老後はもう来ない」、「年収400万円でも将来、生活保護となる可能性がある」と警鐘を鳴らしている書があります。
本日紹介するのは、NPO 法人ほっとプラス代表理事で、12年間、下流老人を含む生活貧困者支援を行っている藤田孝典さんの、こちらの新刊書です。
藤田孝典『下流老人』(朝日新書)
この本は、「一億総老後崩壊の衝撃」というサブ・タイトルにあるように、「下流老人を生んでいるのは社会である」という結論を一貫して本書で提唱しています。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.下流老人とは何か
2.下流老人の現実
3.誰もがなり得る下流老人-「普通」から「下流」への典型パターン
4.「努力論」「自己責任論」があなたを殺す日
5.制度疲労と無策が生む下流老人-個人に依存する政府
6.自分でできる自己防衛策-どうすれば安らかな老後を迎えられるか
7.一億総老後崩壊を防ぐために
本書では、「下流老人」を、「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義しています。要するに、国が定める「健康で文化的な生活」を送ることが困難な高齢者です。
「下流老人」の具体的な指標として、本書では以下の3つを挙げています。
1.収入が著しく少ない
2.十分な貯蓄がない
3.頼れる人間がいない (社会的孤立)
以上の3つが、「下流老人」か否かを判断する重要な指標となります。つまり、「下流老人」とは、「あらゆるセーフティネットを失った状態」と言えるでしょう。
次に本書では、「下流老人の問題」が社会に与える悪影響として、次の4つを挙げて警鐘を鳴らしています。
1.親世代と子ども世代が共倒れする
2.価値観の崩壊
3.若者世代の消費の低迷
4.少子化を加速させる
これらの悪影響は、すでに社会の中で起こってきており、とくに若者世代における上記3番目の「消費の低迷」や「少子化の加速」は、わが国の経済に大きな影響を与えています。
また、2番目の「価値観の崩壊」についても、「高齢者が尊敬されない」とか「年よりは邪魔でお荷物だ」という意識が社会にはびこり始めています。
「下流老人」問題の源流は、「フラット化した世界」の格差問題
「下流老人」の問題は、実は「貧富格差」の問題であって、ピケティの『21世紀の資本』がベストセラーになったことでも分かるように、経済格差の問題は「資本主義」という制度に内在する世界的な問題です。
経済格差、貧富格差の問題は、1989年11月の「ベルリンの壁崩壊」から本格的に始まったと私は見ています。
英国のジャーナリストであるトーマス・フリードマンが書いた名著『フラット化する世界』において指摘されているように、世界の単純労働がすべて最も人件費の低い水準に収斂されてきたことから起きています。
最も人件費水準が高かった日本では、その影響はとくに顕著に出ています。単純労働は、パソコンやインターネットの普及によって、「アウトソーシング」という」形で、世界で最も人件費が安い国の労働者へ移行しました。
まさに「世界がフラット化」されて、単純労働は世界のどこへでも移動することになったのです。
IT革命によって、ロボット化や単純事務作業の効率化も進み、現代社会における労働集約的な仕事時代が大幅に削減されました。単純労働しかできない人材は不要になってきているのです。
20世紀の産業では中心だった製造業は、大量の人的労働を必要としましたが、21世紀の産業の中心を担うサービス産業、とくにIT関連産業では、多くの労働力は必要なく、少数の知的労働や創造的な仕事だけが求められています。
そうしたクリエイティブな仕事ができる少数の富裕層と単純作業しかできない圧倒的多数の労働者との格差は今後、ますます開いていくでしょう。
さて本書では、普通の生活者が「下流老人」に転落していくケースを具体的に紹介し、誰にでも起こりうることだと指摘しています。
また、「生活貧困者」や「生活保護受給者」のことを、「努力が足りない」とか「自己責任」といった言葉で片付け、非難する社会の風潮や政治のあり方を、著者は痛烈に批判しています。
確かに、現代社会の「貧困問題」は老人のみならず、若者や女性、シングルマザー、生涯未婚者など、多くの弱者層に広がっています。
そうした厳しい社会情勢の中で、とくに定年退職を前にして、あなたはどのような人生設計を描きますか。本書を参考にしながら、定年後の生き方を考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!