書評ブログ

大前研一『民の見えざる手』(小学館文庫)

大前研一氏は、マッキンゼー日本支社長から独立して経営コンサルタントとしてフリーで活躍する日本を代表する論客だ。道州制の導入や、インターネットによる情報社会の到来、進化を早くから唱え、指摘していた。

 

本書は、私がビジネスマン人生を送る上で、座右の銘ともしているコンセプトが満載の優れた書籍で、多くの若いビジネスパーソンに推薦している。これからを生き抜く知恵が随所に述べられている。

 

とくに私が肝に銘じているのが、「現代のビジネスマン3種の神器英語・IT・ファイナンスである。」 という点だ。人口や世帯数が大幅に減少する少子高齢化社会の日本では成長の可能性は低く、拡大するアジアのマーケットが今後のビジネスの主戦場になる。

 

アジアにおけるビジネスの共通語は英語であり、武器として「英語力」がなければ話にならない。WEBページの7割から8割は英語で書かれており、情報収集は英語で行うのが基本だ。

 

また、情報通信革命は止まることなく、その速度はさらに加速しており、これが世界のビジネス、生活、ひいては社会全体を大きく変化させている。ITのリテラシーなくしてグローバル競争に勝つことはあり得ない。

 

最後のファイナンスは、経営には当たり前のスキルで、そもそも数値が読めなくては経営にならない。バランスシートや損益計算書は株式会社の基礎であり、デリバティブを始め金融技術がわからなければ経営は不可能だ。

 

本書は、アダムスミスが 『国富論』 で唱えた「神の見えざる手」をもじって、大衆の心理が世界の経済を動かす時代になっていることを述べている。情報社会とは、生産者主権から消費者主権へ大きく転換する時代だ。

 

本書の最後に、大前氏が近年、最も力を入れている教育について述べている。欧米の管理者教育はリーダーシップを重視するが、最近はとくにアフガニスタンやイラクの戦場で軍の指揮を執った経験者が重視されるそうだ。

 

GEなど米国を代表するトップ企業がこぞって軍隊経験のある若者を幹部候補として採用している。戦場という緊迫し、何が起こるか予測不能な現場で、部隊を統率したリーダーシップ経験が高く評価されるという。

 

大前氏の著書はすべて読む価値のある本だが、とりわけ文庫本にもなって手に取りやすい本書は、若いビジネスパーソンにはぜひとも読んでもらいたい。心から推薦する。