書評ブログ

大前研一『クオリティ国家という戦略』(小学館)

昨日に続き、大前研一氏の新しい著書である本書を紹介したい。2008年のリーマンショック以降、先進国も新興国もそろって景気回復の推進力として、グローバル企業の国際競争力強化に取り組んでいる。

 

本書は、シンガポールおよびスイスをモデルとする「クオリティ国家」という国家戦略を紹介し、日本に欠けている視点だと指摘している。シンガポールもスイスも、日本と比べて人口規模や国土の小さい小国だ。

 

それでもこの両国は、一人当たりGDPは世界トップレベルを維持し続けており、日本がバブル崩壊やリーマンショックの落ち込みから脱出できずに、ランキングを下げ続けているのと対照的だ。

 

シンガポールやスイスは、国家戦略としてグローバル企業が活動しやすい優遇策を策定し、これらの本社を誘致している。法人税率は日本よりはるかに低いし、規制緩和も徹底している。

 

グローバル企業の本社は、情報通信革命により、世界のどこにあっても支障はなくなりつつあり、国境を越えた活動がしやすい投資環境の整った都市に集中しつつある。

 

スイスのネスレは食品業界の代表的なグローバル企業だが、社員の大半はスイス以外の国民だし、売上の大半は海外で上げている。それでも本社がスイスにあることで、年収の高い幹部や戦略部門は本社もあるスイスに集中する。

 

小さいけれどもクオリティの高いトップ企業や国際競争力のある産業を、国家戦略として育成し、稼いでいくことが今、必要なのだ。日本は国内の規制が多く、法人税率も先進国では最高水準なので、海外のグローバル企業を殆ど誘致できない。

 

経済効果がない情報拠点としての日本支社や限られた機能で雇用も生まない現地法人がある程度だ。これでは、人口が減少していく日本市場において、一人当たりGDPを上げていくことは困難だ。

 

本書での大前氏の主張は、日本全国一律の政策ではなく、都市ごとに競争力のある産業に特化した戦略を立てるべきだ、ということだ。従って、道州制の形で日本を8~10くらいの道州単位に再編成するのだ。

 

首都圏、関西圏、九州圏といった形で、特色ある都市として、さまざまな規制緩和や企業誘致策を練っていくことで、小国シンガポールに匹敵する経済圏を形成することは可能だ。

 

日本の政治、経済をリードする政治家、官僚、財界幹部をはじめ、日本の将来に懸念を持っている、すべてのビジネスパーソンに読んでもらいたい一冊だ。