出版不況と言われて久しく、今まさに「紙の本」が危機に瀕しています。インターネットの普及による電子化の流れが原因の一つであることは論を待ちません。
しかしそうした中で、「なぜ紙の本が人にとって必要なのか」と問いかけ、言語脳科学の立場から「脳を創る読書」を主張する本があります。本日はこちらの書を紹介します。
酒井邦嘉『脳を創る読書』(実業之日本社)
この本は、言語脳科学を専門とする科学者であり、大学で物理学と脳科学と言語学を教えている酒井邦嘉さんが、「自分で考えられる」人材を育てるにはどうしたらよいかという問題意識を念頭に書かれています。
本書は、以下の5部構成から成っています。
1.読書は脳の想像力を高める
2.脳の特性と不思議を知る
3.書く力・読む力はどうすれば鍛えられるか
4.紙の本と電子書籍は何がどう違うか
5.紙の本と電子書籍の使い分けが大切
本書の冒頭で著者は、「本を読む」ときに必要な脳の働きについて、説明しています。活字は脳に対する豊富な入力であり、視覚野を通して脳の中だけの「音」に変換される。
そして検索を経て言語野に送られ、「読む」という行為が「言語」と結びつく。「言語野」は現在では、4つの領域に分かれていて、言語地図にしたがって理解が進んでいる。
実は、入力の情報量としては、以下の3つの順番で大きくなっていきます。
1.活字
2.音声
3.映像
黙読よりは音声を聞く朗読の方が、ニュアンスの違いなどが分かりやすい。イントネーションや間などを含めた音声表現は、韻律(ラプソディー)と呼ばれます。
入力の情報量としては、活字より音声の方が圧倒的に大きいと言えます。さらに音声と映像については、視覚情報を加えた映像の方が情報が多いのは明らかです。
以上より、入力の情報量としては、①活字、②音声、③映像の順で小さいわけですが、その分、想像力で補われる部分は、①活字、②音声、③映像の順に大きくなっていきます。
また、出力の情報量についても差が大きくなっています。伝える「出力」の情報量が多いほど、脳はさらに想像力を高める性質があり、脳から出力される情報に注目すると、以下の順番になります。
1.メール
2.手紙
3.電話
4.会話
以上のことから、脳の想像力を十分に生かすためには、できるだけ少ない入力と豊富な出力を心がけるといいのです。もっと分かりやすく言えば、「読書」と「会話」を楽しむことが一番です。
脳の想像力がより発揮できる、入力の情報量が少ない「読書」と、出力の情報量が多い「会話」の組み合わせがベストで、脳は最も想像力を働かせることになります。
「活字で読んだ本の内容を人前で発表する」という行動が、最も脳の想像力を発揮することになります。
本書では後半に、紙の本と電子書籍の違いについての考察や、使い分けについて論じられています。詳しくはぜひ、本書をお読みいただきたいと思います。
皆さんもぜひ、積極的に「読書」をして、プレゼンなどのアウトプットをしてみませんか。脳が想像力を発揮する場面をできる限り作っていくことが大切です。
では、今日もハッピーな1日を!