100歳まで生きるという仮説を立て、人生100年の「自分ロードマップ」を作成しよう、と提唱している本があります。コンサルティングや研修、実践マネジメントで活躍する出川通さんの書いたこちらの最新刊書籍です。
出川通『75歳まで働き愉しむ方法』(言視舎)
この本は、人生をライフサイクルとして俯瞰的視点で見て、組織を50歳で一度「卒業」するというプランと実践を提唱しています。
本書で扱う範囲は50歳を中心にした前後25年間、すなわち25歳から75歳まで働くための方法論として、「ロードマップ」を策定することを提案しています。
不確実で何が起こるかわからない現代においては、「未来」のあるべき姿を起点として現在のあり方を認識する「ロードマップ手法」が必要になっているということです。
本書の構成は、大きく以下の2部に分かれています。
1.75歳まで働くための50歳「卒業」モデルの提案
2.「自分ロードマップ」のつくりかた-だれでもできる未来シナリオ作成の方法
さらにそれぞれの部で計11の小項目に分かれて、75歳まで働くにはどうしたらよいか、を論じています。
1.0歳から100歳まで人生を二分割し俯瞰すると
2.組織からの「卒業」による自立モデルと収入、自己投資
3.50歳までの前半25年は組織内での助走期
4.後半の75歳までの25年は自己実現による収穫期
5.100歳まで愉しみ人生を総括する
6.ロードマップによって全体を俯瞰し未来の自分史をつくる
7.ビジョンとモデル-自分のあるべき姿、価値とは何か
8.ポジショニングとギャップ-現実とのギャップを分析し埋める
9.統合ロードマップ-複合視点で未来シナリオを確実にする
10.未来のリスクをヘッジするファイナンシャル・プラン
11.ロードマップの妥当性とリスクヘッジの方法
これらの構成の途中に、会社人間A氏と自立人間B氏の50歳および75歳における人間模様や近未来シミュレーションも織り交ぜられています。
また、ケーススタディとして著者の52歳で組織を卒業して起業した事例や、75歳で現役バリバリのH氏(著者の先輩起業家)の紹介もなされていて、分かりやすい論理展開となっています。
本書では、人生100年のライフサイクルを以下の4期に分けています。そのうち、働く期間としては50歳を境に前後25年間ずつの50年間となっています。
1.00歳~25歳; 学習期(肉体的成長期)
2.25歳~50歳; 組織内充実期(自己・家族形成期)
3.50歳~75歳; 自立充実期(自立目標達成期)
4.75歳~100歳; 悠遊期(自然と運命の受け入れ期)
本書では、「人生二毛作」の時代が始まっていると説いています。元気な人は皆、75歳まで働くモデルを実行することが、標準的なライフスタイルになるのではないか、ということです。
本書では、普通のサラリーマンが50歳で組織を離れて75歳までに、以下のような収入が稼げるはずだと提唱しています。
1.うまくいけば、年収2,000万円×25年=5億円
2.頑張れば、年収1,500万円×15年+1,000万円×10年=3.25億円
3.まあまあでも、年収1,000万円×15年+500万円×10年=2億円
4.悪くても、年収500万円×15年+250万円×10年=1億円
サラリーマンの時は、とくに日本の会社は「分配率」が低く、ブルーカラーで0.5、ホワイトカラーで0.35~0.4です。米国のベンチャー企業の技術専門職が0.7~0.8であるのと比べると組織の維持コストが高いために「分配率」は低く抑えられています。
それが、組織を「卒業」して独立あるいは起業すれば、「分配率」は1.0すなわち100%になります。50歳以降の働き方は、知識労働者としてフリーになるのが、最も効率的な選択肢です。
本書では、50歳以降に組織を「卒業」するに際し、専門を2つ(ダブルメジャー)あるいは3つ(トリプルメジャー)持つことを薦めています。マルチメジャーとなることが、ナンバーワンの専門家として差別化する武器になるからです。
また、専門家にも2段階あって、組織内のみで通用する「スペシャリスト」から、社外の一般社会で通用する「プレフェッショナル」になることが必要だ、としています。
本書の後半は、「ロードマップ」のつくりかたが具体的に述べられていて参考になります。ポイントは「ありたい姿」という「未来」を起点として作成することです。
そういう意味で、現在の延長から考える「スケジュール」とは根本的に発想が異なる別物です。「ロードマップ」によって人生の全体を俯瞰し、「未来の自分史」をつくるのです。
「過去は変えられないが、未来は変えられる」が本書のキャッチフレーズです。人生100年のシナリオを構築するには、不確定な未来に立ち向かうべく、全体を見て前向きに準備するという心構えが重要です。
そのために、ビジョンとモデルがポイントです。まずは自分自身で「ワクワクする」行き先を決めることです。そして誰か、できれば複数のなりたいモデルを見つけることが近道になります。
「自分のあるべき姿、価値とは何か」を研ぎ澄まして考え、ビジョンを構築して、目に見える形(言葉や文章)として書きだしてみることが必要でしょう。自分の強みや志を見つけるには、人生やキャリアの棚卸が大切です。
幼児体験など人生をできる限り振り返って、現在の自分の考え方を作ってきた体験や出来事を思い出して整理することは有効です。
本書の最後には、未来を先取りした「ロードマップ」の実践、つまりイノベーションのマネジメントについて記されています。達成しようとするビジョン、ターゲットに対して、つねに先を読みながら、やり方や手順を弾力的に変えていくことを、「フィードフォワード法」と呼びます。
過去を基準に将来実践できることを考えていく「フィードバック法」とは対極的な手法です。「フィードフォワード法」は、「あらかじめ、こうなるだろうから」と予測して制御する方法です。
「目のつけどころ」と「洞察力」を磨くことです。上級のスキーヤーが初めてのコースを滑る時に先の斜面の状況を予期しながらスキーをコントロールしていくのに似ています。
この方法論を理解すれば、「過去は変えられないが、未来は変えられる」という「ロードマップ」の発想につながります。
本書で提唱する、50歳で組織を「卒業」し、75歳まで働く「ロードマップ」を作成するという方法論は、私が提唱してサポートする「定年前起業」の理論的バックボーンとなる「考え方」です。
みなさんもぜひ、本書で提唱する「ロードマップ」を作成し、「定年前起業」に挑戦してみませんか。
では、今日もハッピーな1日を!