資本主義経済が大きな転換期にさしかかったと言われています。世界の金融の中心地ニューヨークのウォール街で「99%の貧困層と1%の富裕層との格差」に抗議する大規模デモが行われ話題になりました。
米国をはじめ今、世界中で富裕層への富の集中と経済格差拡大が社会問題になり、治安が不安定になりつつあると言われています。それをそれを裏付ける書として話題になっているのがピケティ著『21世紀の資本』です。
トマ・ピケティはフランスの経済学者で経済的不平等の専門家です。この本が英語に翻訳出版されると直ちに米国で大きな反響を呼び、分厚い経済書としては異例のベストセラーになりました。
そこで今日紹介するのは、その分厚い『21世紀の資本』が60分で理解できるこちらの本です。
池田信夫 『日本人のためのピケティ入門-60分でわかる「21世紀の資本」のポイント』(東京経済新報社)
この本は、分厚くて難解なトマ・ピケティ著『21世紀の資本』(みすず書房)の内容やポイントが60分で分かる入門書です。まず『21世紀の資本』という本の結論ですが、以下のことが書いてあります。
「資本主義では歴史的に所得分配の格差が拡大する傾向にあり、それは今後も続くだろう。」
そして、それを端的に表しているのが本の中にも出てくる次の数式です。
r < g (r : 資本収益率、g : 国民所得の成長率)
つまり「資本収益率が成長率を上回る」という意味の数式で、「経済が成長するほど資本家に富が集中して経済格差が拡大する」というのがこの本の結論です。
これが米国で1%への富裕層への富の集中と格差拡大に不満を募らせていた99%の貧困層米国民の心に火をつけたということです。
そしてこの本が経済学者や有識者からも高い評価を得ている理由は、その豊富な各国統計データを裏付け資料としてまとめている点です。多くの国では、古い統計は未整備でアクセスが困難なのですが、そこを様々な工夫により1870年以降の歴史的データを集めたところに価値があります。
19世紀にはGDP統計も資本ストックという概念もありませんでしたが、税務資料を手掛かりとして統計を集めました。例えば所得税の所得を推定し、固定資産税から地価を推定するといった具合です。
19世紀には国家としての統計を整備していない地域が大半ですが、各地方に残る古文書を発掘したようです。これはピケティの所属するパリ経済学院のスタッフを使って10年以上の歳月をかけて行われた作業で、当時の税務データを収集し欠けたデータを推定で補って各国の資本ストックやGDPや資本収益などを集計し歴史的な傾向を見ました。
この大作『21世紀の資本』の3つのポイントは以下の通りです。
1.格差は拡大してきたのか
2.何が格差の原因か
3.格差をいかに防ぐか
以上がポイントですが、「ヨーロッパの主要国やアメリカでは殆どの時期で不平等は拡大しており、戦後の平等化した時期は例外だった」というのが結論です。
格差の原因は、教育とテクノロジー、スーパーマネージャーの登場、遺産相続などで、タックスヘイブン(租税回避地)に隠された資産が格差拡大を決定的にしています。
格差の拡大を防ぐ手段としてピケティが提案しているのは、①グローバルな累進資本課税と②世界の政府による金融情報の共有です。ピケティの『21世紀の資本』は分厚い大作ですが、まずは入門として本書を読み、予備知識を得て原書に当たられることをお薦めします。
最後に原書の日本語翻訳版と英訳版を掲載しておきます。
私も今後、日本語版は図書館で借りて、英訳版はKindleにダウンロードして読んでみようと思います。
では、今日もハッピーな1日を!