堤未果さんは、東京生まれのジャーナリストでアメリカ駐在経験が長い。2006年に 『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』 (海鳴社)で、黒田清日本ジャーナリスト会議新人賞を受賞した。
2008年には、『ルポ貧困大国アメリカ』 (岩波新書) にて、日本エッセイストクラブ賞・新書大賞を受賞し、その後、貧困大国アメリカはシリーズ第3作まで出版され、大きな反響を呼んだ。(本ブログにて3冊とも紹介)
本書は、鳴り物入りで始まったアメリカの医療保険制度改革 「オバマケア」 について、その本質を鋭く描く力作だ。殆どのアメリカ国民は、オバマケアについて正確な知識がないまま、オバマ大統領の政策を支持してきた。
ところが、「オバマケア」 の実態が明らかになるにしたがって、幅広いアメリカ国民、さまざまな立場の人々から反対の声が物凄い勢いで上がっている。先のアメリカ議会中間選挙で民主党が大敗した最大の要因は、この 「反対」 だろう。
本書は以下の構成から成っている。
1.1パーセントの超・富裕層 (スーパー・リッチ) たちの新たなゲーム
2.ついに無保険者が保険に入れた!
3.アメリカから医師が消える
4.リーマンショックからオバマケアへ
5.次のターゲットは日本
6.参考資料
本書は、アメリカの患者や医師など、現場でのインタビューや生の声をベースに、著者の分析が組み立てられており、説得力がある。レーガン大統領の時代以降、アメリカは資本主義の質が大きく転換してきている。
1%の超・富裕層と、その他99%の貧困層という構図が、時代に鮮明になりつつある。これまで、経済を支えてきた中間層がどんどん姿を消し、99%の貧困層へと転落していく。
アメリカでは住宅も教育も農業(食料)も医療も、非営利で中立、公共性、公平性という理念は失われ、資本主義の論理に基づいた営利事業の 「商品」 になってしまった。
その結果、労働者、教師、農業事業者、医師などが、仕事のやりがい、主導権、倫理観を奪われ、パートタイム労働者と同じ貧困労働者に転落させられている。
詳細は本書を通読していただくしかないが、恐るべきマネーゲームの実態を本書は、実に分かりやすく暴き出している。ここに記されている事実を、アメリカ国民の大半は知らないだろう。
本書の表現の中で私が驚いたのは、「オバマケア」 もリーマンショックの元凶となった 「サブ・プライムローン」 も 「フードスタンプ」 も、すべて本質は同じだ、という著者の分析だ。
いずれの仕組みも 「雨の中で、貧困層も含めてすべての国民に傘を差し上げます」 という、聞こえの良い 「キャッチフレーズ」 が打ち上げられた。しかし、傘は紙でできていて、雨の中で破れ、国民は雨でずぶ濡れ、という構図だ。
オバマケアは、欠陥商品で、保険には入れたが、保険料は値上げされ、薬の処方は制限され、かかれる病院や医師を見つけるのは極めて困難、というわけだ。
そうした中で、莫大な利益を得る医療保険業界と製薬業界、これら業界がウォール街のメガバンクや食品業界と同じく、巨額の政治献金と大量のロビイストを実弾として、政治家に圧力をかけている、ということだ。
本書の最後に、今後のターゲットは日本という警鐘が記され、現在、日本で起こっている様々な法改正や規制緩和の動きを分析している。今後の日本経済、日本社会を予測する上で、すべての日本国民に読んで欲しい一冊だ。