書評ブログ

マルグリット・ユルスナール『ハドリアヌス帝の回想』(白水社)

マルグリッド・ユルスナールさんは、1903年にベルギーのブリュッセルにて名門の家に生まれた。母を幼くして亡くし、博識な父の個人教授のもとで深い古典の素養を身に付けた。

 

1951年に、本書で内外の批評家の絶賛を受け、フェミナ賞を受賞して、女性初のアカデミー・フランセーズ会員となった。(1987年に死去)

 

本書は、古代ローマの五賢帝のひとり、ハドリアヌス帝が、病に伏して自らの命と治世の終わりを予期するに当たり、二代あとの後継者と定めたマルクス・アウレリウスに宛てた書簡という形をとって、回想録をまとめたものだ。

 

回想の内容は、希有な生涯を送ったハドリアヌス帝の旅の日々、後継者問題の悩み、そして何より愛した人の死を振り返っている。

 

皇帝の威厳にふさわしい抑制された筆致をもって語られる、ひとりの人間の深い内省の物語だ。ハドリアヌス帝は、旅とギリシャ、芸術と美少年を愛していた。

 

本書において、ハドリアヌス帝の回想は以下のように展開している。

 

1.さまよえる いとしき魂
2.多様 多種 多形
3.ゆるぎない大地
4.黄金時代
5.厳しい修練
6.忍耐

 

本書の巻末には、作者による覚書き、訳注、および、堀江敏幸氏による解説 「ユルスナールをめぐって ほほえみの粉ー1951年8月の出来事」 が掲載されている。

 

訳者の多田智満子さんによる、訳者あとがきも、ハドリアヌスの一生の概略が述べられていて興味深い。

 

本書も、昨日採り上げた 『マッキンダーの地政学』 と同様に、出口治明氏の推薦する一冊だ。とくに本書は、無人島に一冊だけ持っていくとしたら迷いなく 『ハドリアヌス帝の回想』 だと、出口氏は告白している。

 

歴史を愛する多くの人々の座右の銘となっている本書を、格調高い古典の一冊として推薦したい。