「メッセージのはたらきは不思議だ。どういうときに効果が出て、どういうときに効果が出ないのか。」と問いかけている本があります。
本日紹介したいのは、消費者心理学者で、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ准教授のパトリック・ファーガンさんが書いた、こちらの新刊書籍です。
パトリック・ファーガン『# HOOKED 消費者心理学者が解き明かす「つい、買ってしまった。」の裏にあるマーケティングの技術』(TAC出版)
この本は、メッセージをがっちり食い込ませる方法、刺さるメッセージとなるための「HOOK(=フック)」になる10の法則を紹介している書です。
本書では、10の「HOOK=フック」を、次の3つのSTEPに分けて提示しています。
1.気づかせる
2.考えさせる
3.行動させる
本書は以下の3部構成から成っています。
1.HOOKを深く理解するために
2.あなたのメッセージが無視されないための10のHOOK
3.10のHOOKを実践するためのヒント
この本の冒頭で著者は、例えば「都市伝説」のような話を読んだ時に、どのような特徴がある場合に第三者に伝え、共有したくなるか、という実験を紹介しています。
その結果は、「誰かと共有したい」と思わせる特徴として、次の5つが挙げられました。
1.興味深い
2.キャラクターがリアル
3.気持ち悪い
4.おどろいた
5.話がよくできている
メッセージをしっかり記憶に食い込ませるには、何らかの感情が動くことが重要だとわかります。
また、もう一つの例として、2003年からアメリカの保険会社アフラックが行っている広告キャンペーンを紹介しています。
あの有名な、アヒルが「アフラック!」とブランド名を叫ぶだけの広告です。当初の社内会議では、出席者が皆、理解できず、役員会でも「広告キャンペーンで大胆かつ独創的なことを試そう」と言うだけで終わったそうです。
ところが広告キャンペーンの結果は、7年間で純売上高が44%伸びた、と言います。メッセージが記憶にこびりつくとはどういうことかが、この後本書では説明されています。
本書の結論は、以下の「10のHOOK(=フック)」を深く理解して、実践することです。
1.プリミティブにする
2.感情をわしずかみにする
3.私のこと?と思わせる
4.サプライズを駆使する
5.ミステリー要素を加える
6.ハードルをとことん下げる
7.物語のなかを歩かせる
8.記憶にこびりつかせる
9.思考回路をショートカットさせる
10.プライミング効果を駆使する
まず「気づかせる」というSTEPから、第一に、ある種のプリミティブ(原始的)な要素は、人の注意・関心をぐっとつかむ力をもっている、ということです。プリミティブなものは技術革新の原動力でもあります。
第二に、感情に響くものには、つい注意を奪われます。例えば「かわいい猫」の広告効果ははかり知れない、と言います。イギリスで路上ライブをするジェームズが、「ボブという名の猫」がそばにいるようになってから、注目されるようになり、そのストーリーは何と、次のミリオンセラー出版に繋がりました。
つまり、受け手に記憶させるために重要なのは、ポジティブでもネガティブでも、とにかく感情刺激に対して強く覚醒させることです。
また、感情は行動をうながすモチベーターでもあり、とくに恐怖や不安という感情は、受け手に意思決定をうながす効果が高い、ことが分かっています。
第三に、自分に関係があることには注意・関心を引かれます。例えば、うるさい会話や雑音の中にいても、誰かが自分の名前を言うと聞き取れてしまう「カクテル効果」です。
また、自分のイニシャルや名前が生活の意思決定に影響を及ぼす「ネームレター効果」や、パーソナルな情報を把握して、それに合わせたメッセージにすることで説得力を高められる、ことを本書では説明しています。
人は「じぶんごと」には注意を引かれ、なじみのあるものに関心を示すのです。
第四に、何かサプライズが起きたら、そちらに注意が向く、ということです。
例えば、色、動き、音など、周囲ときわだった不一致や対比性がある「コントラスト」に対して、人は自分ではどうしようもなく注意が向いてしまうそうです。
さらに、「意外性」の3つの要素として、①違和感、②予想外、③斬新性にも、注意・関心を引かれるものです。
違和感のあるものに注意を引かれることを心理学では、「示差性効果」と言います。また、孤立した状態なら記憶しやすい「孤立効果」、頻繁に繰り返されるものよりまれに出てくる刺激に注意・関心を持つ「オットボール効果」も重要です。
赤ちゃんはおどろいたときほどよく学んでいる、ということで、おどろくというのは、状況を理解し、予測を立て、今後は制御できるように備えていくために、学習を手助けする適応だそうです。
したがって、サプライズは、メッセージをきわだたせて「気づかせる」ための、非常に効果的な手段だ、と本書では述べています。
次に、「考えさせる」というSTEPで、第五に、ミステリー(謎)の要素を加えて、「謎を解きたい」、「答えを知りたい」という好奇心を刺激することです。
好奇心はおもしろさと連動するので、ストーリーが効果的です。また、「生成効果」と呼ばれる、メッセージについて自分で考えることによって記憶の刻まれ方が強くなることを活用することも大切です。
第六に、人は元来、めんどうのない道を選ぶので、ハードルをとことん下げて、推薦や提案でメッセージを吸収させることが効果的です。
メッセージを単純でシンプルにすべきだし、選択肢や情報は少なく短くする方が、人は気づきやすくなります。また、オンラインでは、「ファーストビュー(スクロールせずに目に入る領域)」に表示し、しかも左上に最も重要なメッセージを載せるべきでしょう。
第七に、物語は人間の心理に深く根差しているため、コミュニケーションツールとしての効果が非常に高い、ということです。
起承転結があると記憶に残るし、「その気持ち、わかる」と共感させて、自分のこととして体験させることで、伝わる効果が高くなるのです。
物語など意味をもったつながりがあると情報が理解しやすくなり、それを活用した「記憶リンクシステム」もよく知られています。
最後の「行動させる」というSTEPでは、「ヒューリスティック」と「プライミング効果」がキーワードになります。
「ヒューリスティック」とは、まるで思考がショートカットするように、短絡的に結論に結びついてしまうことを言います。「ナッジ」(=比喩的な意味である方向へ突き飛ばして何らかの行動を促す)を与えて、ショートカットを設定することで、意図した方向へ考えを向けさせることができる、と著者は説明しています。
第八は、メッセージを読んでから行動を起こすまでに長いタイムラッグがあるため、しっかり記憶させることです。
したがって、①メッセージに気づかせ、考えさせる、②反復する、③最初か最後に出す、④ピーク・エンドの法則に沿う、という記憶のルールを活用することが大切です。
とくに、「反復は記憶のカギ!」と、本書では述べています。
第九に、ヒューリスティック(=経験や勘を根拠として、短絡的に思考すること)のはたらきで、思考回路をショートカットして行動をうながすことを提唱しています。
ヒューリスティックや「ナッジ」の理論については、次の書籍が紹介・推薦されています。
また、刺さるメッセージを作るという意味でもっとも優れたフレームワークを提示していると紹介されているのが、こちらの名著です。
同書は、説得力を発揮する「武器」として次の6種類を提示しています。
1.希少性
2.社会的証明
3.権威
4.返報性
5.好意
6.コミットメントと一貫性
ここでは、ある面で好意を持つと、その他の面でも同様に好ましく見える「ハロー効果」や、最初に小さなお願いを受け入れた人は大きな要求も聞き入れやすくなる「フット・イン・ザ・ドア」と呼ばれる手法を説明しています。
また、関係のない質問に相手を同意させるだけで、その後のお願い(例えば寄付のお願い)に同意させる確率が高まる「単純同意効果」なども紹介されています。
第十に、頭の中に何かの発想を居座らせることによって、その後の行動に影響を与える「プライミング効果」を活用することです。
「プライミング効果」が起こるのは、刺激に接することによって、脳の中でその刺激の記憶ノード(接合点)が目覚め、ノードとノードが結びつくためです。
例えば、ハロウィンの飾りつけを目にしていると、サンキストのような、オレンジ色のブランドを思い出しやすくなる、ということです。
そして、スプラミナル(知覚・意識的)のプライミング効果は、しっかり認知処理しているので効果が出やすく、一方、サブリミナル(無意識的)のプライミング効果は、現実的な効果は出にくい、そうです。
本書では、「メッセージの中に言葉、文章、画像などを巧みに配置し、関連する発想や、感情や、行動を思い浮かべさせれば、それによって受け手の行動が変わってくる」という結論を説明しています。
あなたも本書を読んで、「つい、買ってしまった。」の裏にあるマーケティングの技術を学び、「10のHOOK(フック)」について考察してみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を