「マンション漏水事故に関する知識も、マンションを取り巻く諸制度や商慣習についても、まったく無知だったことを思い知らせれました。」、「20年近く前から、多くの人が突然漏水事故の加害者となり、悲惨な思いをしてきたにもかかわらず、その経験は世の中に共有されず、新たに加害者となる人はまったく情報がない中で途方に暮れるということが繰り返されてきました。」と述べている本があります。
本日紹介するのは、1962年神奈川県生まれ、複数のノンバンク、外資系銀行、信用調査機関において、平成バブル最盛期から崩壊初期の時期に、不動産担保金融専業ノンバンクで融資審査、不良債権回収業務に従事したのち、現在は金融ジャーナリストとして、法律、会計、プロ野球の球団経営・興行などを執筆分野に活動する伊藤歩さんが書いた、こちらの書籍です。
伊藤歩『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)
この本は、著者の伊藤歩さん自身が、31年前に中古で購入した築40年、7階建て、総戸数50戸の自宅マンションにて突然、漏水事故の「加害者」になってしまった(階下の和室・押し入れの天井から大量の漏水が発生)経験の顛末を詳細に記した書です。
本書は以下の5部構成から成っています。
1.まさかの漏水事故が起きてしまった
2.「水回り設備がダメになる」の謎
3.「無保険マンション」「スラム化」を避けるために
4.マンション総合保険の裏側
5.マンションの資産価値を守る!
この本の冒頭で著者は、「記者を職業とする筆者に災いが降りかかったのは、いわば天命との思いで本書を執筆しました。」と述べています。
そして、「マンションの漏水問題が社会問題として、一人でも多くの人に共有されることを願ってやみません。」と続けています。
本書の前半では、「まさかの漏水事故が起きてしまった」について、以下のポイントを説明しています。
◆ 耐圧漏水テストで即、クロ判定
◆ 管理会社と設備施工会社の関係はマンション共用部分の発注・下請け関係
◆ 管理不能な配管の責任の所在は所有者にあるという理不尽
◆ 部屋の中にむき出しで設置する「露出配管」
◆ マンション漏水事故の95%は「給湯管ピンホール事故」
◆ 設備工事会社の大半は、マンション管理組合の理事長しか相手にしない
◆ 日本リニューアルが唯一の給湯管ライニングサービスを1住戸単位で対応する会社
◆ 漏水事故の被害者宅の復旧には、管理組合が入るマンション総合保険の個人賠償特約を使うのが通常
この本の中盤では、「水回り設備がダメになるの謎」および「無保険マンションスラム化を避けるために」について、著者の経験を紹介・解説しています。主なポイントは次の通りです。
◆ 給湯管ピンホール事故は、必ず専有部分で発生
◆ 漏水事故は専有部分ゆえ、情報共有されず、管理会社と保険会社のみが把握
◆ 仲介の不動産会社にも「配管老朽化リスク」の説明義務はない
◆ 給湯管ピンホールは「銅管」の劣化現象で、100%専有部分に設置
◆ 給湯管ピンホールによるマンション漏水事故は、築20年超で全住戸の10%、築30年超で15~30%、築40年超で全住戸の50%を超える確率で起こる
◆ 日本リニューアルは、2000年頃から給湯管のライニング工事技術の研究を進め、60度のお湯が通っても溶けたり劣化したりしないライニング用樹脂性塗料を開発
◆「配管交換済み」表示のリノベーション物件でも安心できない実態
◆ 国内鋼管メーカー5社は2社に再編され、研究者がいない状況
◆ 銅管に穴が開く原因はお湯に含まれる溶存酸素
◆ 保険金で処理した漏水事故処理にかかった費用をだれも知らない
◆ 横並びでない損保各社の補償内容と保険料
◆ マンション管理適正化診断を保険料に反映させる日新火災を管理会社は使わない
◆ 施工不要住戸へは返金が必須
本書の後半では、「マンション総合保険の裏側」および「マンションの資産価値を守る!」について考察しています。主なポイントは以下の通り。
◆ 劣化が原因のマンション設備破損に保険金は支払われない
◆ マンション総合保険の「個人賠償特約」の本質は知られていない
◆ 水漏れ原因調査費用特約で共用部か専有部分かの調査を行う
◆ 管理会社が保険代理店を兼務できる不思議
◆ 共用部からの漏水被害には「施設賠償特約」
◆ 保険金の振込先は受取人に決定権がある
◆ 管理組合の保険で業者が好き放題できる構図
◆「加害者負担ゼロ」はフロントマネージャーの常識か
◆ 保険の査定書、工事報告書、管理組合の帳簿、工事代金の請求書をチェックすべき
◆ 保険の査定書と工事報告書は管理会社が理事会に渡さないことがある
◆ 修繕積立金で専有部の配管工事を禁止する標準管理規約21条2項のコメント
◆ 漏水事故の多発に伴って生まれた「21条2項」
◆ 湘南ハイムの最高裁判決で、修繕積立金を専有部の工事に使うことを認める
◆ マンションの長寿命化を図るうえで最も優先順位が高く効果的なのは、「専有部の配管類の更正・更新」
◆ 配管更正工事に使われるエポキシ樹脂の安全性に議論あり
◆ 給湯管ピンホールが認定されたら床を掘り返すのは賢明でない
あなたも本書を読んで、中古マンションの漏水問題の不都合な真実を知り、専有配管の更正・更新によって資産価値を守ることの大切さを学び、発信していきませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2930日目】