「多くの人は、分譲マンションに対してかなり誤ったイメージを抱いている。」「1962年に制定された区分所有法を、現状に即して改めないかぎり、すべてのマンションには廃墟化への危機が訪れる。」と警鐘を鳴らしている本があります。
本日紹介するのは、同志社大学法学部および慶應義塾大学文学部を卒業し、マンションの広告制作や販売戦略立案などを手がけ、現在は一般ユーザーを対象にした住宅購入セミナーを開催するほか、新聞や雑誌に多くの記事を執筆する住宅ジャーナリストの榊淳司さんが書いた、こちらの書籍です。
榊淳司『すべてのマンションは廃墟になる』(イースト新書)
この本は、マンション購入は「資産構築」にはならず、ほとんどの分譲マンションは廃墟化への時限爆弾を抱えていることを指摘し、マンションはどのように廃墟化してしまうのか、廃墟化を防ぐ手立てはないのか、その危機的現実と解決策を提示している書です。
本書は以下の9部構成から成っています。
1.マンションが粗大ゴミになってしまった
2.35年ローンで手に入るのは廃墟化マンション?
3.あなたのマンションは何年もつのか?
4.管理組合がマンションを廃墟化させる
5.管理組合が果たすべき役割
6.なぜマンションは建て替えられないのか
7.穴だらけの区分所有法
8.マンション廃墟化を食い止めるために
9.廃墟化が見えたマンションから逃げ出す方法
この本の冒頭で著者は、バブル期に乱立したリゾートマンションの末路が資産価値ゼロの「負」動産になってしまった悲劇を紹介しています。
スキーブームだった1980年代後半に建てられた新潟県の湯沢町に合計1万5000戸が建てられたというリゾートマンションは、分譲価格5000万円の物件でも現状の資産価値はほぼゼロで、お金を払ってでも手放したい状況だと言います。
それはマンションの利用の有無にかかわらず、毎月の管理費と修繕積立金や、固定資産税の支払い負担が重くのしかかってくるためです。
リゾートマンションは一般に、温泉大浴場など立派な設備を持ち、その維持管理コストが通常の住宅用マンションよりも割高になっているのです。
利用しなくなった人から徐々に管理費の滞納が始まり、相続が発生して次の世代になるとそれが加速、マンション管理自体が崩壊してしまう、ということです。
本書によれば、一般的にマンションの廃墟化は次の2段階(ステップ)で進む、としています。
1.資産価値喪失(500万円未満の価値になり、管理組合のモチベーション低下)
2.管理不能(管理費の徴収ができず、必要な管理業務や保全が行えなくなる状態)
つまり、管理組合がどのような機能を果たしている状態かをきちんと見る必要があるのです。そのマンションの通信簿が「総会議事録」で、チェックポイントは次の3点。
◆ マンション内で、水漏れ、雨漏りが発生していないか
◆ マンション内で、致命的な不具合が起きていないか(例:外壁タイルの大量崩落など)
◆ 区分所有者同士で、争い事が発生していないか(例:訴訟に至るような問題)
よくある事例として、管理組合の理事長による着服など、マンションの私物化です。これは、マンション管理組合は、戸数が多ければ年間の管理費予算が数十億円の単位にもなる「利権」となるためです。
それにも関わらず、新築マンションは、分譲時に以下の4点セットを購入者の意思を無視して「お仕着せ」で決めているそうです。
1.管理規約
2.管理会社
3.管理費・修繕積立金
4.長期修繕計画
この4点は管理を行う上での最重要項目なので、本来は区分所有者の意思により、しっかり話し合って決めるべきものですが、現状は分譲会社に都合よく管理会社が決められ運営されているそうです。
さらにこの本の後半では、2017年末時点で日本には644万戸の分譲マンションのストックがありますが、2018年4月時点で建て替えられたマンションはわずか274件(計画中を含む)しかない、と述べています。
そうした区分所有法の欠陥からくる、マンション管理の不具合やマンション廃墟化を防ぐには、まずマンション管理組合を法人化することが解決策になる、と著者は言います。
管理組合法人となれば、管理費を滞納して競売となった住戸を買い取って、区分所有者になることができるので、再生しやすくなります。
また、この本では随所に「コラム」が挿入されていて、興味深いテーマについて、具体的事例が紹介されていて参考になります。
とくに地上20階以上のタワーマンションについて、そのデメリットが以下のように整理されていたのは参考になりました。
◆ 管理費や修繕積立金が通常の板状型マンションに比べ高くなる
◆ 電気が止まると水道も使えなくなる
◆ エレベーターも使えなくなり、地震などには生活機能面で恐ろしく脆弱
◆ 高層階では救急車まで搬送に時間がかかり、心肺停止状態では蘇生はできない
◆ 地震や台風で揺れが大きい
◆ 高層階の間は遮音性の低い乾式壁で仕切られているので音が漏れる
◆ 高層階では洗濯物を外へ干せない
◆ 夏場は日照でかなり暑くなる
◆ 小さな子は外で遊ばなくなり、自然と触れ合う機会が減る(偏差値が低い原因との指摘も)
◆ 高層階に住む妊婦ほど流産の危険性が高い(実証データあり)
これに対して、メリットは「眺望がいい」ことくらいだ、と本書では述べています。でも「毎日見ていたら景色も飽きる」という声もあります。
本書の最後で、こうしたマンションの無価値化の波が、東京の都心にもひたひた迫っている、と著者は述べています。
「すべてのマンションには、必ず終わりがやってくる。」と著者の榊さんは言います。区分所有のマンションは、冷静に眺めていれば「やばい」ことだらけだ、ということです。
果たして、人生100年時代となって、マンションは「終の棲家」としてその役割を果たすことはできるのでしょうか。
あなたも本書を読んで、「マンションの廃墟化」について、改めて考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!