高齢者医療に25年間携わってきた医師が明かす「死にたくても死ねない高齢者」の悲惨な実態を描いた本があります。
本日紹介するのは、千葉大学医学部を卒業、千葉県救急医療センターに勤務した後、千葉大学大学院で博士号を取得、さいたま赤十字病院を経て、医療法人社団杉浦医院院長の杉浦敏之さんが書いた、こちらの書籍です。
杉浦敏之『死ねない老人』(幻冬舎メディアコンサルティング)
この本は、人生90年、100年時代を迎えた現在の日本で、見過ごされている「自身の長寿を喜べない高齢者が増えている」という事実にスポットを当てて、さまざまな課題を整理して説明している書です。
本書は以下の5部構成から成っています。
1.増え続ける「死にたい老人」の実態
2.生きていく理由を見出せなくなった「死ねない老人」
3.望まない延命治療が生み出す「死ねない老人」
4.高齢者が生きがいを持ち続けるために必要なこと
5.「望み通りの死」を叶えるために社会で取り組むべきこと
この本の冒頭で著者は、「本人の意思に反して生かされている高齢者もかなりの数にのぼる」と指摘しています。そして今は「死にたい」と思ってしまう高齢者の心情や背景について、もっと社会が目を向け、早急に対策を考えなければならない、と述べています。
この本では、次の2種類の「死ねない老人」に分けて問題提起及び対策の考察をしています。
◆ 高齢者本人が招来の希望や生きがいを見失ってしまい、死にたいと願ってしまう「死ねない老人」
◆ 周囲の圧力によって不本意に生かされてしまう「死ねない老人」
前者では、人生の先輩である超高齢世代に「死にたい」と思わせない社会にするには、どんな対策が考えらるかを考察すべきでしょう。
また後者は、高齢者の「希望の終末期」「希望の最期」を叶えるためには医療者や家族はどう考えていくべきか、という問題です。
本書の中盤で著者は「医師は病と闘い、人の命を救うのが仕事です。」と述べ、「医師にとって “ 死が敗北 ” なら、確実に “ 全敗 ” 」と指摘しています。
この「全敗」というのは、医師だった著者の父親の言葉だということで、生前、医療の究極の目的は「いかに患者さんが満足して死んでいけるか」だとも語っていたそうです。
例えば、「人は死にゆくもの」というのが世界のスタンダードで、アメリカでは「生命維持のための医師指示書(通称POLST)」というものが活用されます。
これは次の4つの医療行為を続けるかどうかについて、患者本人あるいは医療代理人と、医師が相談して決めるそうです。
1.心配停止の蘇生
2.脈拍あるいは呼吸があるときの積極的治療
3.抗生剤投与
4.人工栄養
また、オーストラリアでは「高齢者介護施設における緩和医療のガイドライン」が策定されていて、終末期医療について、次のような方針が明確に示されている、ということです。
◆ 無理に食事をさせてはいけない
◆ 栄養状態改善のための積極的介入は、倫理的に問題がある
◆ 脱水のまま死ぬことは悲惨であると思い点滴を行うが、緩和医療の専門家は経管栄養や点滴は有害と考える
◆ 最も大切なことは入所者の満足感であり、最良の点滴をすることではない
そして、食べられなくなった患者に無理に食べさせるのは「虐待」だと本書では指摘しています。こうした明確な基準が日本の医療機関でも標準的な基準になれば、患者も家族も医療保険財政も、すべて良い方向に向かうでしょう。
この本の後半では、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生の質)と並んで、QOD(クオリティ・オブ・デス=死の質)も重視すべきという考え方が紹介されています。
さらに、高齢期の「生きがい」について、次の2つがキーワードになる、と著者は言います。
1.人の役に立つ(=仕事)
2.好奇心をもって学ぶ(=学習)
つまり、日本大学の林成之先生が提唱しているように、脳の「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」という3つの本能がポイントになるようです。
この本の最後には、「尊厳死」および在宅での「看取り」について、著者の見解が書かれていて勉強になります。ぜひ、本書を一読することをお薦めします。
最後に、本書で紹介されている書籍で、とくに私も参考になったものを挙げておきます。
あなたも本書を読んで、高齢期の医療や尊厳死について考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を