2008年9月のリーマンショック以降、急激に増加した生活保護の実態を取材したNHKが、TV番組 「NHKスペシャル」 を放映した際、大きな反響を呼んだ。
生活保護の受給者は終戦直後の人数を超え、史上最高の250万人にもなっている。製造業の「派遣切り」によって仕事と住む場所を同時に失ってホームレスに転落する多数の貧困者。
年末に日比谷公園の炊き出しに集まったホームレスは想像を絶する人数となり、その報道は社会に衝撃を与えた。番組の 「NHKスペシャル」は、坂田記念ジャーナリズム賞を受賞し、本書はそれを書籍化したものだ。
単行本は2012年4月に宝島社から出版され、2013年6月に早くも文庫化された。それだけ反響も大きく、変化も激しいテーマだ。貧困と格差の問題は、その後もさらに深刻化しつつある。
本書ではまず、働ける世代の生活保護受給の実態が描かれる。正社員から契約社員(期間社員)、さらにパート、派遣社員と、転職を繰り返すたびに年収は下がり、身分も不安定になっていく。
とくに中高年になってからの失業は、仕事を得ること自体が極めて困難になっていく。家賃が払えず、住所も持てないホームレスやネットカフェ難民になれば、もはや仕事に復帰することは絶望的だ。
最後のセーフティネットが生活保護になっている。リーマンショック後は転落していく働き盛り世代が急増した。その背景を本書は描いている。
次に、貧困ビジネス業者の実態が紹介される。失業者やホームレスに生活保護受給の指南をしてピンハネするビジネスだ。知識や気力のない失業者を食い物にする許せない集団だ。
取材班は、業者と役所に突っ込んだ取材を行い、生活保護受給者に密着する。そのリアリティに驚くと同時に言葉を失った。生活保護の受給に追い込まれると、そこから脱出するのは殆ど不可能だ。
貧困ビジネスと闇社会とのつながりも見え隠れする。果てしない社会の病巣に、我々もいつ何時、ひょっとしたキッカケで転落するかも知れない。恐怖感を覚えずにいられない。
現代社会の矛盾と、資本主義社会の格差拡大の宿命がわかる本書は一読の価値がある。ビジネスパーソン必読の書だろう。