米国でアマゾン旋風が吹き荒れる中、「ECが主役になる日が来るのか」という問題意識のもとで、小売業の近未来と再生のロードマップを示している本があります。
本日紹介するのは、慶應義塾大学を卒業後、大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、独立してファッションビジネスの経営実務研究会SPACを主宰し、業界の経営革新にあたる一方、業界紙やネットメディアなどにも寄稿する小島健輔さんが書いた、こちらの書籍です。
小島健輔『店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る』(商業界)
この本は、データ収集とビジネス活用では先駆的な存在の経営者である、TSUTAYAを運営するカルチャー・コンビニエンス・クラブ代表の増田宗明さんが「最も信頼するデータサイエンティスト」と絶賛する著者が、徹底した調査と分析をしている書です。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.ECの拡大が招く閉店ラッシュ
2.オムニチャネル戦略は反撃の決定打となるのか
3.ECを支えるプラットフォーマー
4.ラストワンマイルの担い手
5.販物一体が店舗販売を自滅させる
6.ポストECのニューリテール革命
7.省在庫・無在庫のショールームストア
この本の冒頭で著者は、ECの拡大はこれからが本番で、店舗のショールーム化や閉店ラッシュは加速する、と予測を記しています。
アパレル店の退店ラッシュを招いた原因は、わが国独自の要因が1点(最初の要因)と、日米に共通する要因3点の、以下に挙げる計4点の要因です。
1.2000年の借地借家法改正(定期借家契約)・大店立地法施行(営業時間自由化)の弊害が限界に
2.衣料品の過剰供給・オーバーストアによる消化率低下
3.インターネット(とくにSNS)による情報民主化
4.ネット環境向上とモバイルシフトと女性就業率上昇によるECの拡大
さらに、商業施設デベ(ディベロッパー)が、ECの脅威を理解していないと著者の小島さんは指摘しています。
近年のトレンドは、郊外型SCの評価が落ち込み、ルミネ、アトレなど、駅直結の施設の評価が上がっているのが特徴です。
そうした中で、ECに攻撃される小売店舗側の反撃コンセプトとして、「オムニチャネル戦略」が出てきていますが、店舗からECに誘導する「ショールーミング」と、ECから店舗に誘導する「ウェブルーミング」は対立的に捉える必要がなくなった、と著者は言います。
オムニチャネル販売、オムニチャネル消費という現実は、次に来る「キャッシュレス革命」(スマホ決済が主流)の前提にもなります。
この「オムニチャネル戦略」では、在庫と顧客管理の一元化が要であり、以下のECモール取引の4形態の特徴を理解することが重要になります。
1.場所貸し型
2.フルフィル型
3.マーケットプレイス型
4.ハイブリッド型
続いて本書では、自社EC体制確立の障害や、オムニチャネル戦略の副作用について説明しています。
次に、ECを支えるプラットフォーマーとして、アマゾンとウォルマートの対決や、「ラストワンマイル」の担い手である宅配業界(ヤマト運輸・佐川急便)とアマゾンとの交渉などが解説されています。
さらに、「販物一体」流通の欠陥や、チェーンストアのECを阻む5つの壁を以下の通り指摘しています。
1.リテラシーの壁
2.情報システムの壁
3.物流の壁
4.ガバナンスの壁
5.コストの壁
この本の最期には、ポストECとなるニューリテール革命として、次の2つの方向を示唆しています。
◆ ハイテク装備の無人店舗
◆ オムニチャネルなショールームストア
著者の述べる結論は、無人店舗といっても、搬入・棚入れ陳列・補充整理など「マテハン業務」が店舗業務の過半を占め、レジ業務を無人化しても、無人店舗にはならない、ということです。
レジ業務についても、レジレスではなくキャッシュレスが本質ではないか、と著者は述べています。
そして、突破口として、省在庫・無在庫のショールームストア時代が来る、というのがこの本の結論です。
現在は、第5のパラダイムシフトの時代で、アパレル業界や小売り業界のみならず、商業施設デベ業界も含めて、この変化を直視し、変化への対応により生き残りを図るために、本書を強く推薦します。
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