ターマンとその継承者フリードマンによって行われた八十年にもわたる奇跡的で稀有な研究が明らかにしたことの一つが「あなたの健康を左右するのは、医療や薬よりももっと別のこと」であると述べている本があります。
本日紹介するのは、1960年香川県生まれ、東京大学哲学科中退、京都大学医学部卒業、同大学院にて研究に従事するとともに、パーソナリティ障害や発達障害治療の最前線で活躍、現在は岡田クリニック院長、山形大学客員教授、精神科医、医学博士の岡田尊司さんが書いた、こちらの書籍です。
岡田尊司『真面目な人は長生きする 八十年にわたる寿命研究が解き明かす驚愕の真実』(幻冬舎新書)
この本は、八十年にわたる稀有な研究の結果とともに、それに関連する最新の研究や最新の医学、ことに精神医学的知見を盛り込んで、この驚くべき真実がわれわれに教えてくれていることは何かを考えている書です。
本書は以下の12部構成から成っています。
1.はじめにー薬や健康食品では長生きできない
2.寿命は何を語るのか
3.あなたは長寿性格か?
4.その性格が寿命を縮める
5.命を縮める破局的思考
6.親の離婚は子どもの寿命を五年縮める
7.寿命を延ばす運動と食事
8.結婚は寿命を延ばすか、縮めるか
9.成功や達成感は寿命に影響するか
10.社会との絆と寿命
11.命を縮めるストレスとトラウマ
12.おわりにー希望ある真実
この本の冒頭で著者は、アメリカの心理学者ルイス・ターマンが第一次世界大戦が終わった直後の1920年頃に、カリフォルニア州に住む10歳前後の子どもから、知的能力の高い子ども約1,500人を選び出し、本人、保護者、教師に面接調査を始めたことを紹介しています。
ターマンが当初期待したことは、児童期に測定された子どもたちの能力、成育歴、養育・教育・生活環境、健康状態などについてあらゆるデータを集め、彼らの将来の成功や社会適応、幸福を予測できるのではないか、ということです。
ターマンは1956年に79歳で亡くなり、30数年にわたる追跡調査と研究は道半ばだったものの、その後カリフォルニア州にて長寿研究に取り組んでいた若き教授のハワード・フリードマンと大学院生のレスリー・マーチンがターマンのコホート研究(同時代を生きた集団の追跡調査研究)のデータを活用・分析するとともに、その後の健康状態や死亡率、死亡原因を20年以上も追跡調査し、驚くべき真実を明らかにした、ということです。
その概要は、ハワード・フリードマン・レスリー・マーチン『長寿と性格』(清流出版)にて公表されています。
ターマンとフリードマンの研究は、途中に30年近い欠落があるものの、80年にわたる長期研究が、1500人という規模で行われた例は、まず他になく、しかも詳細を極めたデータを備えた研究は空前絶後と言う意味で、健康長寿とさまざまな要因の関係を、これまでのどんな研究よりも正確に、そして深く突き止めることとなった、と著者は言います。
本書の前半では、「寿命は何を語るのか」および「あなたは長寿性格か?」について、以下のポイントを説明しています。
◆ 幸福な人は長生きし、長生きする人は幸福である
◆ 寿命は極めて客観的で冷厳な結果を示す指標だから「長寿」を研究対象に
◆ ターマンの集めた各人の詳細なデータと寿命や死亡率、死亡原因という客観的な数字が結びついて、予想を超えた事実が明らかに
◆ 80年という時間をかけて得られた結論は、時間的空間的制約を超えて普遍性を持つ
◆ 長寿と最も関係の深い要因は「コンシエンシャスネス(conscientiousness=勤勉性)」
◆ 長寿に不可欠な要素は、勤勉で誠実で秩序を重視するが、ある程度他者に対する寛容さや柔軟性、思いやりを備え、ストレスにうまく対処できること
◆性格の五大因子(外向性・協調性・勤勉性・神経症傾向・開放性)以外の「愛着の安定性」が長寿には不可欠な要因
◆ 真面目な人が長寿なのは、①健康の危険因子を排除、②遺伝的素因で病気になりにくい(セロトニン・システム)、③自己コントロールで健康的な生活環境(安定した仕事・結婚・対人関係)を手に入れるから
◆ 長寿性格に還る方法は、①ゲインよりリスクを重視、②変化より現状維持を優先、③自己コントロール力を高め、欲から少し距離を置く
◆ 孤独な科学者の方が社交的なビジネスマンより長寿
◆ パーティーでの付き合いより、何でも話せて相談できる身近な存在
◆ 感謝や希望といった前向きで肯定的な考え方は長寿にプラス
◆ 幸福は成功に先行する
この本の中盤では、「その性格が寿命を縮める」「命を縮める破局的思考」「親の離婚は子どもの寿命を五年縮める」「寿命を延ばす運動と食事」および「結婚は寿命を延ばすか、縮めるか」について考察しています。主なポイントは次の通りです。
◆ 破局的思考は、否定的な認知と全か無かの二分法的認知で寿命を縮める
◆ 破局的思考は不安定な愛着や子どもの頃の心の傷と結びついている
◆ マインドフルネスで価値判断をせずにありのままを受け入れることが大切
◆ 親の離婚は「愛着の不安定」から子どもの離婚確率を上げ、寿命を5年縮める
◆ 中年期の運動やカロリー制限は死亡率を抑える
◆ 健康寿命を延ばすには、筋肉量を減らさないこと
◆ 安定した結婚生活は寿命を延ばす(結婚の期間が長いほど長寿)
◆ 死別や離婚で配偶者を失うと、男性は寿命が縮まり、女性は影響がない
本書の後半では、「成功や達成感は寿命に影響するか」「社会との絆と寿命」および「命を縮めるストレスとトラウマ」について解説しています。主なポイントは以下の通り。
◆ 知性や学歴は寿命に関係なく、向上心を持って学び続け、より高い達成に向けて自分を磨き続けることは寿命を延ばす
◆ セロトニンの働きが活発なほど、ストレスや不安をはねのける
◆ 上に立つ者(指揮者、社長など)は下の者より長生きする(ストレスが少ない)
◆ 仕事の適性より、慎重さ、信頼性、忍耐力など「勤勉性」が成功の要因
◆ 働くことは死亡リスクを下げる
◆ 働き盛りの時期に仕事がないことは極めて大きな不利を強いる
◆ 真の生き甲斐(目標に向かって努力し、意味のある達成を成し遂げる、誰かを助け、誰かの役に立つ)が長寿をもたらす
◆ 孤独と感じているシニア世代はアルツハイマー病になるリスクが2倍以上に
◆ 人との繋がりで最も大切なのは、「人の助けとなり世話をする」ということ
◆ ターマン研究で最も長寿だった人は、人に優しく接し、思いやりがあり、進んで人の助けになろうとした人たち
◆ 子どもの世話をすることは、女性ではオキシトシン、男性ではバソプレシンという抗ストレスホルモンの分泌を高める
◆ 早期教育など幼い頃のストレスは寿命を縮める
この本で提唱している「長寿と性格」の結論は、私が拙著3冊で提唱しているトリプルキャリアで「生涯現役」「生涯貢献」、そのための「定年ひとり起業」という働き方やライフスタイルが、そのまま健康長寿に結びつくことを実証するもので、心から共感します。
この本の締めくくりとして著者は、「ターマンから始まった八十年にも及ぶ研究が明らかにしたこと」として次の3点を挙げています。
◆ 人々の寿命を決める要素は、体の健康状態だけではなく、その人の成育歴や教育歴、家族との関係や婚姻状態、仕事ぶりや達成感、社会とのつながりや友情、物事に対する考え方や価値観が関わってくる
◆ 親や配偶者との関係が安定したものであるかどうかが寿命に大きな影響を及ぼす
◆ ストレスがあっても、仕事に励み、自らを役立てることは寿命にプラス
あなたも本書を読んで、八十年にわたる寿命研究が解き明かす驚愕の真実である「長寿と性格」の関係を学び、幸せな人生設計を作って実践してみませんか。
2022年6月18日に、YouTubeチャンネル『大杉潤のyoutubeビジネススクール』【第237回】真面目な人は長生きするにて紹介しています。
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では、今日もハッピーな1日を!【2769日目】