「ヒトの脳には周期がある」と提唱して、新発想がほしいときに使える時間のビュー「感性トレンド」について脳科学の観点から考察している本があります。
本日紹介するのは、1959年生まれ、奈良女子大学理学部物理学科を卒業し、人工知能の研究開発に従事した後、2004年に脳機能論とAIの集大成による語感分析法「サブリミナル・インプレッション導出法」を発表して、現在は感性分析の第一人者、(株)感性リサーチ代表取締役の黒川伊保子さんが書いた、こちらの新刊書籍です。
黒川伊保子『ヒトは7年で脱皮する 近未来を予測する脳科学』(朝日新書)
この本は、脳は7という数字(マジカルナンバー7)に「特別の感覚」を覚え、ヒトの感性やその集合体である流行も、7年・14年・21年・28年で変わり、28年で正反対に、56年で元へ戻る、という法則を中核とする「感性トレンド研究」の成果を解説している、「時代の風を読む」脳科学の書です。
本書は以下の5部構成から成っています。
1.はじめに
2.脳には感性の周期がある
3.感性トレンドで時代を読み解く
4.「今」を読み解く
5.おわりに~時代は私の前で裸になった?
この本の冒頭で著者は、2016年のアメリカ大統領選で、トランプ大統領が「メキシコの壁」を口にしたときの衝撃を紹介しています。
著者の黒川さんは、「時代の風」を読まなければならないときに、7年前、28年前、56年前に何が起こったかを起点に考えると、「今」がつかめると述べていて、「ベルリンの壁」ができたのが1961年だったことが閃いたそうです。
もし、トランプ大統領が誕生して、最初の年の2017年に「メキシコの壁」ができたら、それは「ベルリンの壁」からちょうど56年目になるからです。
「ベルリンの壁」はできてから28年目の1989年に突然、崩壊してしまいました。
この例を最初に提示したのは、新発想法の一つとして、7年周期でヒトの感性が変わり、28年目で正反対、さらに28年経った56年目で元へ戻る、という脳科学の感性研究の成果を説明する導入とするためです。
本書の前半では、脳には7という数字に「特別の感覚」を覚える性質があり、アメリカの心理学者ジョージ・ミラーの論文 “ The Magical Number Seven, Plus Minus Two ” のタイトルに使われた「マジカルナンバー7」という用語や、具体的な事例を以下の通り紹介しています。
◆ 電話番号は7桁以内なら90%の人が記憶できる(8桁になると10%に低下)
◆ 脳には「全体」を表すテーブルがあり、座席は7つある(新しい概念の説明は7つの属性で説明すると腹に落ちる)
◆ 7つの法則、7つの習慣、七福神、7つの音階(ドレミファソラシ)
◆ 虹の7色、ラッキー7
◆ 7年目の浮気
◆ T・H・ロレンス著『知恵の七柱』
◆ 1週間7日で暮らす
◆ 四十九日(初七日から数えて脳の7つのレジスタが一巡する日で魂が成仏)
また脳は満年齢をカウントしていて、東京医科歯科大学名誉教授の角田忠信先生が発見され、『日本人の脳』(大修館書店)という本で世に発表し、その後90歳で集大成となる『日本語人の脳:理性・感性・情動、時間と大地の科学』(百叢社)を書かれました。
角田先生によれば、7人の追跡調査により、誕生日の朝7時20分頃に、脳の「満年齢に呼応する周波数」がカウントアップするのが確認されている、ということです。
朝生まれた人も夜生まれた人も、同じ時刻にカウントアップされるので、私たちの脳は、太陽の位置を知るすべを共通に持っているに違いない、と著者の黒川さんは説明しています。
このあと本書では、人は「7年で飽きる」という脳の感性サイクルを持っていて、ビジネスで言えば、大衆共通の7年サイクルの「感性トレンド」を考慮することが有効です。
この7年周期の「ブレインサイクル」を著者は調査研究しており、簡潔期と複雑期が28年ずつのサイクルで交替し、56年で元へ戻る、という「感性トレンド」をこの本では提唱しています。実際の年代で言えば、以下のサイクルで動いている、ということです。
◆ 1971年~1999年 簡潔期(ピークは1985年)
◆ 1999年~2027年 複雑期(ピークは2013年)
◆ 2027年~2055年 簡潔期(ピークは2041年)
2019年現在は、複雑期(7年ごとに初めから、ナチュラル期・グラマラス期・トラディショナル期・円熟期)の後半となるトラディショナル期で、翌2020年には円熟期に入る、というフェーズです。
感性トレンドの特徴としては、複雑期から簡潔期への変化が顕著になる時期で、以下のような変化が起こりつつあります。
◆ 丸い、ふわふわ、曲線、高さ → 四角い、シャープ、直線、横長
◆ 多色 → モノトーン
◆ おまけ、絆 → 本質、伝統
◆ 日本語、イタリア語(母音) → 英語、ドイツ語(子音)
◆ ナチュラル、自由、私、流線型 → クール、規則的、全体、目的指向
◆ まったり、もっちり、とろ~り → カリ、バリ、サクっと軽い
◆ 付加価値、飾り、デザイン → 本質、定番、伝統、機能
◆ 下から目線、リア充 → 上から目線、、競争
◆ あなただけ → プロが提示するスッキリしたもの
◆ 夢 → 使命
著者の結論は、これから昭和のよき時代と同じ「雰囲気」がやってくる、ということです。
若者は凛々しく、おとなは遊び心を持ち、生活者は適正価格でいいものを買ってくれる。やがて時代が尖りすぎて大怪我するまで、世界は成熟社会(2020年~2027年)と競争社会(2027年~2041年頃)を楽しむことになるそうです。
2048年の初めに、著者は生きていれば88歳、私は89歳。その頃は「今のブイブイはもうすぐ終わる。ここからしばらくは事業を拡大してはいけない。」と息子に言ってあげるそうです。
世の中には、理屈では説明できない「歴史の巡り合わせ」があります。そのメカニズムが本書が指摘している「脳の7年周期」かも知れません。
あなたもこの本を読んで、近未来を予測する脳科学を学んでみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!