「ひきこもりの問題は決して解消もしていなければ、急速に減少したとも言えない」、「ひきこもり者(経験者)への、より良質で継続的な支援を担える機関や施設は、未だに少数にとどまる」と述べている本があります。
本日紹介するのは、社会学研究者の荻野達史さん、川北稔さん、工藤宏司さん、高山龍太郎さんが編集した、こちらの社会学研究者たちによる論文集の書籍です。
荻野達史・川北稔・工藤宏司・高山龍太郎 編『「ひきこもり」への社会学的アプローチ メディア・当事者・支援活動』(ミネルヴァ書房)
この本は、研究蓄積がまだ十分とは言えない「ひきこもり」について、「不登校」「ニート」など多様な形態との関わりを含めて、より広い「社会現象」と把握し、社会学的なアプローチで、メディア・当事者・支援活動の側面から考察している書です。
本書は以下の10部構成から成っています。
1.「ひきこもり」の何が問われるべきなのか?
2.不登校から「ひきこもり」へ
3.ゆれ動く「ひきこもり」 - 問題化の過程
4.「ひきこもり」と統計 - 問題の定義と数値をめぐる論争
5.「ひきこもり」の当事者は<居場所>で何を得ているのか
6.「ひきこもり」と対人関係 - 友人をめぐる困難とその意味
7.「ひきこもり」と家族の経験 - 子どもの「受容」と「自立」のはざまで
8.訪問・居場所・就労支援 - 「ひきこもり」経験者への支援方法
9.「ひきこもり」と精神医療 - 民間支援活動の示唆するもの
10.「ひきこもり」と社会的排除 - 公共サービスの不在がもたらすもの
この本の冒頭で著者は、1998年に刊行された斉藤環『社会的ひきこもり』(PHP新書)を紹介し、①「ひきこもり」を初めて明確に定義したこと、②問題を家族のシステム論でとらえたこと、③家庭内暴力の対処法を具体的に示したこと、という3点の意義があるという識者の見解を提示しています。
また、本書では「ひきこもり」を就労困難なニートに限定せず、対人恐怖症や家庭内暴力など、様々な事例を考察対象にしながら、広く「社会現象」としての捉え方で、社会学的にアプローチしています。
とくに、広く「ひきこもり」に関する支援の現状と、まだまだ行き届いていないという課題について、取り組みの強化を提唱しています。
そのほか、Column として、次の3つの興味深いテーマについて、考察しています。
◆ 「ひきこもり」は昔からあった?
◆ 「ひきこもり」は男性に多い?
◆ 「ひきこもり」はインターネットのせい?
昔からあったかどうかについては、広く「人と交わらず、社会的に自立できない」と捉えれば、「スチューデント・アパシー」や「モラトリアム人間」などとして、かつてから問題になっていました。
男性に多いかどうかについては、調査の仕方で大きな誤差があり、就職期の女性は「家事手伝い」や「花嫁修業」などの形で、「ひきこもり」とカウントされにくい現状を勘案する必要がある、ということです。
そして、インターネットとの関わりについては、過剰な懸念も期待もすべきではない、と述べられています。確かにインターネットが本格的に普及してからかなりの年数を経ていて、その間もさまざまな「ひきこもり」が見られるので、直接の影響はメインの原因とは言えないでしょう。
本書は、多様な「ひきこもり」問題について、社会学的な見地から分かりやすく整理されていて、社会問題としての扱われ方の歴史や、今後の課題がよく理解でします。
約10年前の書籍ですが、「ひきこもり」問題の経緯や向かっている方向性について理解したい人にはお薦めの一冊です。
あなたもこの本を読んで、「ひきこもり」について改めて考えてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!