ドキュメンタリー『定年前起業への道-57歳からの挑戦!』の第60回は、「知的生活の実践」<その5>です。
今日は、小山慶太さんの書いた、こちらの本を紹介します。
小山慶太『知的熟年ライフの作り方』(講談社現代新書)
この本は、高齢化社会に向かう中で、「いかに生きがいを感じながら過ごすか」という、「人生の質」(=Quality of Life)を考えようという目的で書かれたものです。
著者の小山さんは、物理学を学んだ理学博士で「科学史」が専門ですが、職業一本槍という生き方ではなく、新しい人生観・価値観への脱皮を提案しています。
そうした中で、小山さんが提案しているのが、学問研究を道楽とする「知的熟年ライフ」の構築です。
福沢諭吉の『学問のすゝめ』が書かれたのが1872年(明治5年)ですが、そこでは主として「実利性」が重視されました。いわゆる「実学」です。
それに対して、小山さんは「娯楽性」に重点を置いた「楽問」を提唱しています。
具体的な先人の事例として、例えば夏目漱石は、「芸術家や学者にとって、仕事は道楽である」と講演で述べたと言います。
また、寺田寅彦や、イギリス貴族の物理学者レイリーは、「遊ぶ精神」で研究活動を行っていたということです。
そうした事例にも倣って、学問は「楽問」であり、虚学の面白さを訴えています。
また、偉大な科学者とされるダーウィンの『種の起源』も、趣味の研究から生まれた、ということです。
もともとダーウィンは、働く必要もない裕福な家庭に育ち、33歳から亡くなる73歳までの40年間を、ロンドン郊外のダウンに構えた屋敷で何不自由なく過ごしています。
大学でも研究機関でもなく、二万坪に及ぶ広大な敷地に立つ、白い瀟洒な私邸こそが、ダーウィンの思索と執筆の場所でした。
先人たちの姿を見て、自分を鼓舞することは、熟年世代に入って何かを本格的に始めようとするときはぜひ必要です。
とくに本書で提唱している、学問を道楽とし、知的熟年ライフを構築する場合には、すぐれた業績を残した先達の生き方を辿ることにより、学問の面白さ、醍醐味を感得できます。
それから本書の中で興味深かった事実として、ラザフォードというノーベル賞受賞者の門下生で、ノーベル賞受賞者が12名もいる、ということです。
国全体の受賞者人数でもそれに及ばない国がたくさんある中で、一人の科学者の門下生が12人もノーベル賞受賞と言うのは異常な事態です。
著者の小山さんが、それこそ人物研究のテーマと定めて調べたそうです。
また、もうひとつ興味深かったのは、「読書」と「執筆」について論じている部分です。
私が集中的に本を読んでいる分野でもあって興味深かったのですが、「読書の結晶作用」すなわち、まったく違う様々な分野の本を読んでも、異なる本の間で「連関」が出てきます。
さらに、書評コラムへの挑戦など、「執筆」というアウトプットの形を進めていくと、「発酵」作用があらわれます。
その延長として、「ライフワークの研究」に繋がっていくことでしょう。
あなたも、定年後の長い期間をやりがいなく過ごすのではなく、「学問研究」を軸に置いた、本書が提案する「知的熟年ライフ」を考えてみませんか。
2015年11月1日の「定年前起業」まで、あと107日です。皆さんの温かい励ましや応援をどうかよろしくお願いいたします。