書評ブログ

開沼博『漂白される社会』(ダイヤモンド社)

開沼博氏は、福島県いわき市生まれで、東京大学文学部卒、同大学大学院で修士課程を経て現在、博士課程に在籍。専攻は社会学だ。

 

『フクシマの正義』 や 『フクシマ論』 など、原発問題に関する著書、論文が多い。本書は、社会学の視点から、現代社会の目の前から見えなくさせられている現実をルポルタージュ風に描いている。

 

ノンフィクションであるが、社会学の学術書、研究書でもあるところがユニークだ。具体的には、売春島、偽装結婚、ホームレスギャル、シェアハウス、貧困ビジネスなどの現場が採り上げられている。

 

できればこの目で見たくないが、社会から隔絶された場所で、これらは必要悪として確かに存在している現実だ。著者は、それを「漂白された」と表現し、我々の日常生活から見えにくくなっていると説いている。

 

実際に現場を歩いて、当事者や関係者へのインタビューを試みる。そのインタビューで聞き出した話を繋げ、検証を行った上で、社会学の視点から構造的な問題として体系化する手法で分析を進めている。

 

通常の社会問題ルポは現実の詳細レポートと、せいぜい筆者の所感が述べられて終わるのだが、本書はそこに学問的な分析が加わる点がユニークだ。

 

開沼氏は福島の原発村という特殊な世界、弱者であり矛盾に満ちた地域の構造問題を描き出した専門家だが、東京大学大学院の研究者としては極めてまれな研究手法を取っている。

 

ジャーナリストを彷彿とさせる現場主義のきめ細かいインタユー取材と詳細なレポート。そこで終わるのではなく、社会学のテーマとして構造分析を行っているところが興味深いし、参考になった。

 

新たな研究ジャンルを切り開いた本書は、現代社会の病巣を鋭く浮かび上がらせてもいる。ぜひ読んでほしい一冊だ。