田坂広志氏は、著書を出すたびにビジネス書ランキングで上位に入る人気コンサルタントだ。米国バテル記念研究所で客員研究員を務めた後、日本総研の設立に参画、取締役となった。
2000年より多摩大学大学院教授に就任、14年間にわたり 「社会起業家論」 の講義を続けている。またシンクタンクのソフィアバンクを設立して代表に就任し、2008年にはダボス会議のGACメンバーに就任、国際的に活躍している。
本書は、グローバル競争や複雑化する現代社会において、いかに問題解決をして目の前の現実を変革していくかを説いた注目の書だ。著者は、知性を磨き、「スーパージェネラリスト」 になるしかないと述べている。
本書では、「知性」 を他の概念と対比して、以下のように定義している。
1.「知能」 とは、「答えの有る問い」 に対して、早く正しい答えを見出す能力のこと
2.「知性」 とは、「答えの無い問い」 に対して、その問いを、問い続ける能力のこと
また、「知識」 と 「智恵」 を退避させながら、「知性」 の本質を次のように定義する。
1.「知識」 とは、「言葉で表せるもの」 であり、「書物」 から学べるもの
2.「智恵」 とは、「言葉で表せないもの」 であり、「経験」 からしか掴めないもの
3.「知性」 の本質は、「知識」 ではなく、「智恵」 である
もうひとつ、著者は「専門性」が現代の複雑な問題を解決できない現状を分析している。現代社会の問題は、「専門の知性」 だけでは解決できない「学際的問題」であり、「学際研究」や「総合研究」が求められている。
だからリベラルアーツ、すなわち「教養」が重視されているのが、世界の最も先進的な大学教育の目指す方向であり、池上彰氏もそれを説いている。
本書ではそれを「垂直統合の知性」と定義し、それを身に付けた人材を「スーパージェネラリスト」と呼んでいる。筆者はスーパージェネラリストには、現実を動かすための以下の「7つの知性」が必要だという。
1.思想 : 未来を予見する方法
2.ビジョン : 未来に対する客観的思考・大局的洞察
3.志 : 目指す未来を示すもの (次世代まで託す素晴らしきもの)
4.戦略 : 無用の戦いをせずに目的を達成 (波乗りの戦略思考・アートとしての戦略)
5.戦術 : 想像力による固有名詞のシミュレーション、反省力を使った追体験
6.技術 : 「反省の技法」 と 「私淑の技法」 による 「智恵の修得」(メタレベルの知性)
7.人間力 : 「自分の心」、「相手の心」、「集団の心」 の動きを感じ取る修業
これら「7つのレベルの知性」が本来、垂直統合された「1つの知性」であることに、やがてスーパージェネラリストは気づく、という。自己限定を解き放ち、多重人格で仕事をすることで多彩な才能が開花する。
経営トップを目指す、若手・中堅ビジネスパーソンにぜひ読んでもらいたい名著だ。心から推薦したい。