書評ブログ

戸田智弘『働く理由 99の名言に学ぶシゴト論』(ディスカヴァー21)

戸田智弘氏は、1960年愛知県生まれのライター&キャリアカウンセラーだ。本書は、転職経験を経て、フリーで仕事をすることになった著者が、働くことに関して大きな影響を受けた名言を採り上げた書だ。

 

何のために働くのか、という問いは、人生の永遠の問いだ。その答えは、先人に訊いてみようというのが本書の趣旨だ。

 

本書には、99の先人たちの名言が出てくるが、いずれも仕事やキャリアを選択していくにあたり、指針となるようなヒントに満ちたコトバばかりだ。

 

私がとくに感銘を受けて、印象に残った言葉を紹介しよう。まずは、ジョン・クランボルツの次の言葉だ。

 

「 ”まず、はっきりした職業の目標を持ちなさい。そうしなければ、やる気は湧いてこないものだよ”、 私はこうした考えを正しいとは思いません。これを恋愛にたとえるとしたらどうなるでしょう。 ”まずは将来の配偶者を決めないと、デートを始めることもできない” といったことになるのではないでしょうか。これはナンセンスです。」 (by ジョン・クランボルツ)

 

クランボルツの主張する理論は「プランド・ハップンスタンス・セオリー」と呼ばれ、「計画的偶発性理論」と訳される。

 

世の中の変化は激しくなる一方だ。そうした中、自分の思い描いた通りのキャリアを実現していくことはますます難しくなる。

 

むしろ現実に起きたことを真摯に受け止め、その中で自分を磨いていく力が求められる。そのためには、自分の方から何かを仕掛けて予期せぬ出来事を作り出していこうとする意志が必要になる。

 

「偶然の出来事」を「プランド・ハップンスタンス」に変えるには、①好奇心、②持続性、③柔軟性、④楽観性、⑤冒険心、の5つが必要だ。

 

クランボルツの「プランド・ハップンスタンス・セオリー」から学ぶべきポイントは以下の3点だ。

 

1.キャリアの選択肢をオープンにしておくこと (狭めすぎないこと)
2.幸運が舞い込んでくるのを待つのではなく、幸運を作り出すために行動すること
3.夢を思い描いてばかりではなくて、夢に向かって少しずつ試してみること

 

とくに、夢に向かって少しずつ試してみるということは、少しじつ小さな失敗をたくさんしてみる、ということでもある。

 

成功は良いことで、失敗は良くないこと ー 私たちは何となくそう思っているが、それは正しくない。なぜならば、失敗のない成功はないからだ。

 

100の失敗の先にひとつの成功があるからだ。だから、失敗をおそれてはいけない。

 

また、夢には2つの意味がある。ひとつは、空想的な願望・心の迷い・迷夢。もうひとつは、将来実現したい願い・理想。前者の夢は生ぬるい、後者の夢にするには、以下の3点がチェック・ポイントだ。

 

1.夢(将来のあるべき自分)と現在の自分のギャップを自覚しているか?
2.そのギャップを埋めていく戦略や戦術をぼんやりとでもイメージできているか?
3.夢に向かって懸命に努力し、一歩ずつでもその階段を上っているか?

 

この3つの条件を満たしているとき、その夢は 「将来実現したい願い・理想」 という意味になる。

 

ナンシー・K・シュロスバーグの次の言葉も印象深い。「転機をどう見るかということが、転機に対処するうえできわめて重要だということ。変化というものは、それを良いもの、または少なくとも悪くはないものと見るほうが、マイナスと見るよりはるかに受け入れやすくなるということだ。」

 

シュロスバーグは、転機を①予測していた転機、②予測していなかった転機、③期待していたことが起こらなかった転機、の3つに分けた。

 

①は志望していた大学に入学した、志望していた会社に入社したというケース。②はリストラされた、会社が倒産したなどのケース。③は志望していた大学に落ちた、志望していた会社に入れなかったなどのケースだ。

 

人生は予期しない転機に満ちていて、思い通りにいかないものだ。グローバル化が進展し、変化が激しい現代は、予期しない転機が訪れる機会が増えている。

 

サルトルは言う。 「もっといい時代があるかも知れないが、これはわれわれの時代なのだ。」 と。

 

転機を目の前にしたとき、ほとんどの人は怖じ気づくが、以下の心構えが大切だ。すなわち、主体的、計画的、積極的な態度だ。

 

本書は、自らのキャリアを選択していく際の羅針盤となる良書だ。若者のみならず、すべてのビジネスパーソンに一読を薦めたい。