「いま業界そのものが消えてなくなったり、あるいは他の業界と融合してしまったりする事態が、そこかしこで起きています。あなたの事業も、今のままの形態で将来も安泰だといいきれますか。」
このように警鐘を鳴らす書が刊行されました。早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成さんの新刊書を今日は紹介します。
内田和成『ゲーム・チェンジャーの競争戦略-ルール、相手、土俵を変える』(日本経済新聞出版社)
この本は、冒頭の警告を発して話題になった内田さんの前著『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社)をさらに発展させ、競争のルールを破壊している企業(プレーヤー)の戦い方にフォーカスしています。
業界のルールを変えてしまうプレーヤーを「ゲーム・チェンジャー」と呼び、これが本書の主役です。この本は以下の7部から構成されています。
1.新たなゲームのはじまり-激化する異業種競争
2.相手の儲けの仕組みを無力化する <秩序破壊型>
3.顧客が気づいていない価値を具体化する <市場創造型>
4.新たな事業モデルをつくり出す <ビジネス創造型>
5.バリューチェーンを見直す <プロセス改革型>
6.既存プレーヤーはどう対抗するか
7.変化しない者は生き延びられない
「ゲームチェンジャー」の事例として、本書が冒頭で採り上げているのがアマゾンです。サーバー貸出し業という領域で、かつての主役はIBMやヒューレット・パッカード(HP)などのハードメーカーでした。
それがアマゾンがAmazon Web Service(AWS)というクラウドサービスを開始して価格破壊が起こり、サーバー貸出し業というビジネス地図が一変しました。
グーグルやマイクロソフトなどが追随し、アマゾンと同様に自社の巨大なデータセンターのインフラ設備であるサーバーを中小企業に貸出す事業を開始したからです。
これら新規参入者の安価なクラウドサービスはユーザーの支持を受け、一気にシェアを拡大しました。これは既存のハードメーカー側から見れば「価格破壊」です。
ハードメーカーは自社で巨大なデータセンターを持っているわけではなく、アマゾンと同じような戦い方はできません。これまで十分な利益を享受していた業界に、全くの異業種から新規参入が起こり、「競争のルール」が一変してしまったのです。
こうした「ゲームチェンジャー」による「競争のルールを破壊する戦い方」を、本書では以下の4つのタイプに類型化し、その攻め方、守り方を明らかにしています。
1.秩序破壊型 (相手の仕組みを無力化する)
2.市場創造型 (顧客が気づいていない価値を具体化する)
3.ビジネス創造型 (新たな事業モデルをつくり出す)
4.プロセス改革型 (バリューチェーンを見直す)
これら4類型は、以下の2つの切り口におけるマトリックスで分類されています。
1.A既存の商品・サービス or B新しい商品・サービス
2.C既存の儲けの仕組み or D新しい儲けの仕組み
上記のA・Cの組み合わせが「プロセス改革型」、A・Dが「秩序破壊型」、B・Cが「市場創造型」、B・Dが「ビジネス創造型」という形になります。
上記のタイプ類型において、もっともドラスチックに「ルールの変更」が起こり業界が一変してしまうのが1番目の「秩序破壊型」です。
ゲーム業界の勝ち組だった任天堂は、「スマホなど携帯電話でゲームを楽しむ」という新たなトレンドに的確に対応できずに大幅に売上、利益を減らし、3年連続の営業赤字となっています。
また、4番目の「プロセス改革型」としてはアマゾンが代表格です。アマゾンは今や本の販売だけでなく、家電販売でも大きくシェアを伸ばしています。
ヤマダ電機をはじめとする我が国の家電量販店は、価格破壊と圧倒的な品揃えで街の電気屋さんのシェアを奪い、急成長してきましたが、今はアマゾンを筆頭とするEC取引による購入に消費者が移行し、苦境に立たされています。
リアル店舗を構えるコストがない分、大量仕入れのメリットを生かしてきた家電量販店の販売価格より安いのです。家電量販店などのリアル店舗を、商品を選んだり確かめたりするだけの目的に(ショールームとして)利用し、実際の購入をネットで行うことを「ショールーミング」と呼びますが、そうした消費行動をとる人々が急増しています。
こうした異業種競争によって生まれた新しいビジネスやサービスは、消費者にとっては歓迎すべきものです。ただ、供給者にとっては、常に新たな競争相手の出現におびえる時代と言えるでしょう。
気心の知れた「業界内競争」から、何を仕掛けてくるかわからない相手と戦う「異業種競争」が大きく進みました。つまり次のような「ゲームチェンジ」が起きたということです。
◆ 競争の土俵が変わる
◆ 競争の相手が変わる
◆ 競争のルールが変わる
こうした中で、事業者はつねに以下の2つの視点を持ってビジネスの変化を考えていく必要があります。
1.顧客への価値提案は明確か
2.現行のビジネスモデルを出発点としてどんな稼ぎ方が考えられるか
変化の激しい現代は、既存の大企業といえども安泰ではありません。逆に、定年前起業や定年起業するスモールビジネスであっても新たな事業カテゴリーをつくり出して、シェアを奪うことが可能な時代です。
起業にあったてはぜひ、「ゲーム・チェンジャー」として異業種競争を仕掛ける視点を持つべきでしょう。消費者が求める価値を提供し、支持を受けることが勝者の条件です。
では、今日もハッピーな1日を!