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大島清『歩くとなぜいいか?』(PHP文庫)

大島清氏は、京都大学名誉教授で医学博士。東京大学医学部を卒業後、ワシントン州立大学に留学した。京都大学を定年退官後は、サロン・ド・ゴリラを主宰して、運動や性と脳との関係を中心に執筆、講演活動を積極的に行っている。

 

近年は、「歩く」ことを推奨し、本書はその代表作だ。人類は、二足歩行を始めたことにより、脳が発達して進化したと説いている。とくに足には大きな筋肉のほとんどが集中しており、歩くことによって筋肉が脂肪やエネルギーを消費して、健康が増進される。

 

歩くことによって脳の働きも活性化され、生活習慣病の予防のみならず、アルツハイマー病を代表とする痴呆症の予防にも効果的だ。歩くという活動は、有酸素運動の典型なので、ゆっくりと確実に脂肪を燃焼させる。血中の脂肪を減少させることにより、若くて健康な血管が維持されるのだ。

 

大島氏によれば、「歩く」ときに最も大切なのは、楽しく「歩く」ことだという。現代人は、江戸や明治の時代の人間と比べ、極端に歩かなくなっているらしい。江戸や明治の時代は1日平均3万歩くらい歩いた。現代では平均的なサラリーマンで5,000歩程度で、1日1万歩という歩数は意識して歩かなければ、なかなか達成できない。

 

普通の食生活をしていると、1日1万歩程度、歩けば肥満や生活習慣病になることは殆どないという。ただ、1万歩はかなり高いハードルなのだ。大島氏が薦めるのは、生活の中に散歩などの楽しみとして意識的に「歩く」ことを取り入れること、そしてそれを習慣にしてしまうことだ。

 

毎日の習慣とすることで、「歩く」ことを意識的に行うことになる。距離や時間、つまり歩数はあまりこだわり過ぎずに、とにかく毎日、歩くことを習慣にすることだ。歩く楽しみとして、わが町の草花マップを描くなど、楽しみを感じながらの散歩を推奨している。

 

山口瞳氏の著書 『わが町』 (角川文庫)を紹介し、山口氏が住んでいた国立という町の魅力を発見する様子を参考にしている。大島氏自身は鎌倉に住まいを構え、鎌倉の町の魅力を述べている。草花などの自然や鎌倉幕府の面影を残す歴史についてなど、読み応えがある。

 

私も国立や鎌倉は、縁があって何度も訪れたり、住んでいたりもしたが。どちらも素晴らしい町だ。著者は、京都大学を定年で退官した後に 「歩く」 ことに目覚めたようだが、中高年になって基礎代謝量が落ちてくる頃から、ぜひウォーキング、著者の言う 「歩く」 ことを薦めたい。そのキッカケとして本書は最適の書だろう。