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大原ケイ『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書)

大原ケイ氏は、米国と日本で子供時代を過ごした帰国子女で、ニューヨークの大学でジャーナリズムを学んだ。独立して、現在は米国の著者や著作を海外に紹介する仕事に奮闘している。

 

本書は、ルポとタイトルについている通り、電子書籍元年と言われる2010年の米国と日本における電子書籍の現状をレポートし、著者の感想や予測を述べた書だ。

 

興味深い点は、電子書籍のコストを分析した箇所だ。通常、出版社の取り分が50%で最も多いが、そのうち印刷代が20%分だという。これが電子書籍ではゼロになるのだから、単純に8割の価格設定は無理なく可能だ。

 

ただ、実際には、在庫リスクなし、返本の流通コストなし、なので、電子書籍のコスト・メリットはもっと遥かに大きいだろう。したがって、将来的には電子書籍の価格は劇的に下がる公算が高いと私は見ている。

 

少なくとも、日本の紙の本で見られる再販売価格維持制度のような硬直的な価格体系にはならず、自由競争の下で価格競争が起こるだろう。

 

もう一つ、本書で指摘しているのは、自費出版が紙の本と比べて各段にやり易くなることだ。電子出版は、ハードルが低く、米国では70%の印税生活を送る成功者が出ている。

 

アマゾンでは、電子出版するためのガイドブックが数多く出ている。審査にかかる時間も短く、紙の本を出す場合と比較して、出版社への企画持ち込みも倍率の高い審査も初版数の売れ残りリスク算定もいらない。

 

本書では、ベストセラーであるコヴィー氏の 『七つの習慣』 を事例に採り上げて電子出版のメリットを説明している。このような古典に近い自己啓発本は、特別なマーケティングをすることなく毎年売れ続ける、最もおいしい本だ。

 

電子書籍になじみがなく、感覚を掴みたい人に本書は最適だ。入門書の一つとして薦めたい。