書評ブログ

外国語学習にも科学はあるか?

外国語の学習は、学生や社会人にとって、近年ますます重要になってきていますが、これは古くて新しい課題です。今日のテーマは、この 「外国語学習」 にも科学があるのかどうか、ということです。

 

第二言語習得論 ということで、本日紹介したいのがこちらの本です。

 

白井恭弘 『外国語学習の科学 – 第二言語習得論とは何か』 (岩波新書)

 

この本は、第二言語の習得を二つの観点から考察しています。ひとつは学習者の立場からで、現在外国語を学習中の人、昔やった外国語学習を振り返ってみたい人、または今後新たに外国語学習を始めたい人には、この本は参考になります。

 

もうひとつは教育者としての観点です。外国語を教えている先生方、将来外国語教育の方面に進みたい人には、教師の立場から、この本が役立つでしょう。また外国人に日本語を教える日本語教育にも役立ちます。

 

この本は、以下の構成から成っています。
1.母語を基礎に外国語は習得される
2.なぜ子どもはことばが習得できるのか ~ 「臨界期仮説」 を考える
3.どんな学習者が外国語学習に成功するか ~ 個人差と動機づけの問題
4.外国語学習のメカニズム ~ 言語はルールでは割り切れない
5.外国語を身につけるために ~ 第二言語習得論の成果をどう生かすか
6.効果的な外国語学習法

 

この本では、外国語学習に関して科学的アプローチをとる研究を概観し、その全体像を示し、さらにそれを実際の外国語教育・学習に応用するにはどうすればよいか、ということを論じています。

 

上記の章ごとに、外国語習得を科学的に解明していますが、まとめとして最終章に以下のように述べられています。

 

まず、外国語学習の成功は、主として、学習開始年齢、適性、動機づけによって決まるので、学習開始は早い方がよく、理由はどうであれ、動機づけを高めることが大事です。

 

適性についてはあまり変えられないのですが、自分の適性に合った学習方法をとりことが必要です。そして、外国語は母語を基盤に習得されるので、母語の知識は最大限に生かし、また邪魔になる部分を最小限にすることが重要です。

 

母語と外国語が違う部分が学習の邪魔になりやすいので、そのような部分を、第二言語のデータベースを増やすことで克服しなければなりません。

 

そのための最も重要なメカニズムは 「インプット理解とアウトプットの必要性」 であり、さらにそれを例文暗記などによって補足していくことも重要です。

 

意識的な知識の学習とその知識を自動化していくことも重要ですが、それだけでは不十分だということを理解しておく必要があります。インプット理解と、意識的学習の自動化という両方のプロセスを最大限に生かすことが外国語学習の成功のカギとなります。

 

第二言語習得研究はまだ発展途上なので応用はできない、と言う人もいますが、著者の白井さんは 「そうは思わない」 と断言します。そもそも世の中、100%理解されていることは殆どありません。

 

スポーツでも自己流で練習するよりは、コーチに教わったり、他の選手が書いた本を読んだり、スポーツ科学的な研究成果を取り入れる人の方が成功する確率が高いのと同じでしょう。

 

外国語を学習することは究極的には、異文化との意思伝達が目的です。世の中には意思がうまく伝わらないことで起こる問題が沢山あります。

 

外国語学習がより効率よく行われることが、世界の様々な問題の解決にも多少寄与するのではないか、ということが白井さんの願いです。

 

「岩波新書」 という、堅いイメージの出版形態ですが、著者の白井さんはあとがきで、「知的・実用的な読み物としてだけでなく、教科書としても使えるようなものを、と思って書きました」 と述べています。

 

この本の巻末には、用語索引と参考文献の一覧もあり、参照もしやすい工夫がなされています。最後に著者は、以下の本を 「併読書」 として推薦されているので、以下に紹介します。

 

ピーター・トラッドギル 『言語と社会』 (岩波新書)

 

この本は、白井さんが大学生 (上智大学外国語学部英語学科) の時に教科書として使われたものです。この教科書が非常によかった、と述べているので、私も読んでみようと思います。

 

では、今日もハッピーな1日を!