タイラ・コーエン氏はハーバード大学で経済学博士号を取得して、米国ジョージ・メイゾン大学の経済学教授になった。また、コーエン氏は2011年、英エコノミスト誌で、「今後最も世界に影響を与える経済学者の一人」に選出されている。
本書は、1970年代以降の米国経済が大きな停滞期に入っていると分析している。大停滞の要因は以下の3つの「容易に収穫できる果実」を米国経済は食べ尽くしてしまったからだ。
1.無償の土地
2.イノベーション (技術革新)
3.未教育の賢い子どもたち
それまで米国は、3つの「容易に収穫できる果実」のお蔭で経済成長を続けることができたということだ。欧州諸国がそうだったが、先進国はすべてこの軌跡を経て成熟した安定成長の国々へと移行する。
1991年、2001年、2009年と3度にわたり米国は景気回復を果たしているが、いずれもジョブレス・リカバリー、つまり雇用拡大を伴わない景気回復だった。所得格差は広がり、世帯所得は伸び悩み、金融危機が起こったことが特徴だ。
現在、米国のGDPの25%を上回る三部門、①政府支出、②教育支出、③医療支出、は急成長しているが、商品の質と成果が過大評価されており、生産性は向上していない。
また、インターネットはイノベーションを起こして急成長しているが、価格が安く、GDPも雇用も大きく生み出さない。
金融危機の真の原因は、我々が自分たちを実際以上に豊かだと誤解していたことだ。イノベーションの停滞や過剰な楽観主義に気付かないままバブルが崩壊した。
今後、インドや中国で科学と工学が発展してイノベーションの担い手になる可能性はある。また、インターネットが収益を生んだり、米国の教育改革が進む可能性もある。ただ、当面は米国の景気停滞は長引くだろう。
本書は、米ビジネス・ウィーク誌で、「2011年最も話題の経済書」に選ばれた。今後の世界経済の行方を占う意味で、本書の分析は必ず役に立つはずだ。すべての経営者、ビジネスマンに薦めたい一冊だ。