一昨日、昨日に引き続き、「貧国大国アメリカ」シリーズの第1弾が本書だ。本書は、米国サブプライム問題が表面化した2007年に取材し、2008年初めに本書は出版された。まさに2008年9月のリーマン・ショック後の不況と貧富格差の拡大を予言した内容だ。
本書は主に、以下の5点に焦点を絞って貧困と格差の問題をルポ形式で述べている。
1.貧困が生み出す肥満国民
2.民営化がもたらした公共サービス崩壊
3.医療費高騰と一度の病気で貧困に転落する国民
4.学費高騰による借金地獄と貧困層の若者を軍へスカウトする構造
5.ワーキングプアが支える民営化された戦争
まずは、ファーストフードやインスタント食品による低価格かつ低栄養価の食品による肥満の増大が採り上げられている。炭酸飲料も低格で提供され、肥満に拍車をかける。
民営化された公共サービスでは、防災対策の予算削減と、初期対応の稚拙さから、ハリケーン・カトリーナは人災だと指摘している。住まいや職を失った地域住民は、2年経っても生活ができない最貧困層のままだ、と述べられている。
医療問題は、シリーズ第2弾で詳しく書かれているが、たった一度の病気で貧困層に転落し、二度と這い上がれない米国の医療費高騰の実態が描かれている。やはり完全民営化してはいけない分野があるということだろう。
同じく、教育も完全民営化すると大きな歪みが出てしまう分野だ。若者の大半は授業料を払うための借金返済を抱え続け、もはや軍に入隊する以外に返済する手段がなくなってしまっている。
今度は軍へ入ると、最下層の兵士として、すぐにイラクへ派兵され、心身を病んで帰還し、そのままホームレスになってしまう、という。移民や不法滞在のヒスパニック系の子は大半が同じ運命を辿るようだ。
最後は民営化された戦争の実態が描かれている。多くのワーキングプアに支えられた戦争。資本主義、自由主義の論理が徹底した巨大ビジネスも同じ構図、というのが筆者の結論だ。
米国の格差問題、貧困問題は今後、あらゆる国で起こる構造問題となるだろう。すべてのビジネス界の人々、学生たちに本書とシリーズの他2冊を読んでもらいたい。