『経済の現場から統計データで見る インフレ日本の安い賃金』
「安くないと売れない、買えない――その思い込みこそが、日本を貧しくしてきたのではないか。」― これほど真面目に働いているのに、なぜ日本人の給料は上がらないのか。なぜ物価が上昇すると、生活が急に苦しくなるのか。経済統計という「数字」と町工場経営という「現場」の両方から、日本の賃金が安い本当の理由を読み解いた一冊があります。
本日紹介するのは、慶應義塾大学理工学部を卒業後、同大学大学院理工学研究科前期博士課程を修了し、富士重工業(現・SUBARU)航空宇宙カンパニーで航空機開発に携わり、精密機械加工業者での修行を経て2012年に家業の小川製作所へ合流、現在は同社取締役として職人兼経営者を務めながら、2020年からXで日本の経済統計グラフを毎日発信している小川真由(おがわ・まさよし)さんが著した、こちらの書籍です。
小川真由『経済の現場から統計データで見る インフレ日本の安い賃金』(日経BP社)
著者は、日本人の給与が上がらない背景には、企業だけでなく、私たち自身が無意識のうちに持っている「安いことはいいことだ」という価値観があると指摘します。
本書の大きな特徴は、GDP、賃金、物価、企業活動などの経済統計と、著者自身が町工場の職人・経営者として経験してきた現実を重ね合わせていることです。
「日本人はなぜ豊かになれないのか」を評論家ではなく、経済活動の当事者として考察しています。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.インフレ日本の安い賃金
2.統計データが示す「日本の経済・社会の現在地」
3.「賃金上昇のカギ=付加価値」の解像度を上げる
4.労働と付加価値についての「日本のおかしな思い込み」
5.日本人の無自覚な「自分の安売り」はどこからきたか
6.データが示す「日本の豊かな未来」への処方箋
7.まずは「適正な取引価格」から始めよう
本書の前半では、日本人の賃金が上がらなかった背景について、以下のポイントを説明しています。
◆ 「高品質・低価格」を求めすぎた結果、人の仕事まで安く評価されるようになった
◆ 手厚いサービスは、日本の労働生産性が低く見える一因にもなっている
◆ 日本のGDPと賃金の停滞は、国際比較すると特異な状況にある
◆ 給与とGDPは深く関係し、国全体が豊かになることが個人の所得向上につながる
◆ 株価の上昇だけでは、働く人が豊かになったとは言えない
この本の中盤では、賃金を上げるカギとなる「付加価値」と、日本特有の思い込みについて解説しています。主なポイントは次の通り。
◆ 付加価値とは商品そのものだけでなく、投入された「人の仕事」も含めて考える
◆ 無料サービスや過剰な親切は、仕事の価値を見えにくくする場合がある
◆ 他人の仕事を安く求めることは、巡り巡って自分自身の賃金を安くすることにつながる
◆ 日本では機械や設備への投資に比べ、人の仕事が低く評価されてきた面がある
◆ 「形のない仕事」の価値を適正に価格へ反映させることが、賃金上昇には欠かせない
本書の後半では、日本を再び豊かにするための具体的な方向性について考察・提言しています。主なポイントは以下の通りです。
◆ 日本経済の好循環をつくるには、多くの人が働く中小企業の付加価値向上が重要になる
◆ 売り手が顧客を選び、適正価格で取引するという発想への転換が必要になる
◆ 多品種少量の時代には、単純な安さではなく仕事の価値に応じた価格設定が求められる
◆ 売り手と買い手が対等になり、互いの仕事を尊重することが豊かさにつながる
◆ 賃上げの出発点は、「人の仕事」を正当に価格へ反映することである
本書を読んで最も考えさせられたのは、「安いものを求め続けることが、自分自身の給料を安くしているかもしれない」という指摘です。
商品やサービスの価格を抑え続ければ、企業が生み出す付加価値も増えにくくなり、そこで働く人の賃金を上げる余力も生まれにくくなります。
本書でもう一つ重要なのが、「付加価値」という考え方です。日本では、目に見えるモノにはお金を払っても、相談、設計、説明、接客、アフターサービスなど「形のない仕事」は無料で当然という感覚が残っています。
私は、これからの日本で賃金を持続的に上げるには、単に企業へ「給料を上げろ」と求めるだけでは不十分だと思います。「適正価格 → 付加価値向上 → 賃上げ → 消費拡大」という好循環をつくることが大切なのでしょう。
人の仕事を安く買い叩かないことは、自分自身の仕事を安売りしないことでもある。
経済統計を学びたい人はもちろん、物価高の中でなぜ賃金が上がらないのか疑問を感じている人、経営者や個人事業主、そして「日本をもう一度豊かにするには何が必要なのか」を考えたい人に、ぜひ読んでほしい一冊です。
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では、今日もハッピーな1日を!【4215日目】








