「60年前に池田首相によってこれだけ熱心に職務給の導入が説かれていたにもかかわらず、60年後にその大後輩の岸田首相によって全く同じことが説かれなければならないのはなぜか、といえば、それが全く実現しなかったからです。」と述べている本があります。
本日紹介するのは、1958年大阪府生まれ、東京大学法学部卒業、労働省、欧州連合日本政府代表部一等書記官、衆議院調査局厚生労働調査室次席調査員、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授を経て、現在は労働政策研究・研修機構労働政策研究所長の濱口桂一郎さんが書いた、こちらの書籍です。
濱口桂一郎『賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛』(朝日新書)
この本は、岸田首相が唱道してやまない職務給というものが、近代日本の労働をめぐる歴史の名が出どのように繰り返し登場し、持て囃されては消えていったのかという推移を描いている書です。
本書は以下の5部構成から成っています。
1.雇用システム論の基礎の基礎
2.賃金の決め方
3.賃金の上げ方
4.賃金の支え方
5.なぜ日本の賃金は上がらないのか
この本の冒頭で著者は、「本書はちっぽけな新書版ではありますが、今日大きな政策課題となりつつある賃金の問題について、きちんと歴史的な視野に立って議論できるための基礎知識を詰め込んだ本になっているはずです。」と述べています。
本書の前半では、「雇用システム論の基礎の基礎」および「賃金の決め方」ついて以下のポイントを説明しています。
◆ ジョブ型とメンバーシップ型の違い(雇用契約・賃金制度・労使関係)
◆ 戦後賃金統制が日本の賃金制度の骨格
◆ 高度成長期に日経連は職務給から職能給へ
◆ 政府の職務給志向
◆ 定年延長と賃金制度改革
◆ 低成長期に日経連は脳力から成果と職務へ
◆ 非正規労働問題から日本型「同一労働同一賃金」へ
◆ 岸田政権の「職務給」唱道
この本の中盤では、「賃金の上げ方」について解説しています。主なポイントは次の通りです。
◆ ベースアップの誕生
◆ ベースアップに対抗する「定期昇給」の登場
◆ 春闘の展開と生産性基準原理
◆ 雇用が第一、賃金は第二で、ベアゼロと定昇堅持の時代へ
◆ アベノミクスと官製春闘
本書の後半では、「賃金の支え方」および「なぜ日本の賃金は上がらないのか」ついて説明しています。主なポイントは以下の通りです。
◆ 最低賃金制の確立
◆ 目安制度による地域別最低賃金制
◆ 最低賃金類似の諸制度(公契約条例、派遣労働者の労使協定方式)
◆ ベースアップに代わる個別賃金要求
この本の締めくくりとして著者は、「EUで最低賃金指令が作られたのもヨーロッパ全体で労働組合の力が弱まってきているからでしょう。」と述べています。
あなたも本書を読んで、複雑怪奇な仕組みが縦横に入り組んでいる賃金制度について、歴史的経緯を戦前戦中にまで遡って詳しく理解することにより、現在の賃金政策を考察・評価してみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【3509日目】