「定年後の所在のなさには明確な理由がある」と述べて、定年後も過去の人間関係に依存し続けている人の解決されない悩みについて考察している本があります。
本日紹介するのは、九州大学大学院人間環境学府人間共生システム専攻博士後期課程修了、現在は九州大学および肥前精神医療センター臨床研究部にて集団認知行動療法の研究や職場のメンタルヘルス対策に従事している公認心理士、臨床心理士、心理学博士の中島美鈴さんが書いた、こちらの新刊書籍です。
中島美鈴『あの人はなぜ定年後も会社に来るのか』(NHK出版新書)
この本は、心理学の「認知行動療法」の視点から老後の所在のなさ(孤独感)の正体を明らかにし、悔いのない豊かな定年後の人生を歩んでいくためのシンプルな考え方を示してくれる書です。
本書は以下の7部構成から成っています。
1.はじめに
2.定年後に人生はどうなっているのか?
3.老後の孤独感の正体
4.あなたを支配する「考え方のクセ」
5.親密なヨコのつながりを築く方法
6.自分で自分を評価する生き方
7.おわりに
この本の冒頭で著者は、「老後の不安と孤独感の問題は、ご自身の『認知』と『行動』を見つめなおすだけで、とてもシンプルに、どう付き合っていけばよいのかが見えてきます。ほんのちょっとのコツで、定年後の長い時間を充実したものにできるのです。」と述べています。
続いて著者は、「定年の延長で、健康問題や孤独感といった問題が先送りされただけなのだ」と言えるかも知れないと指摘しています。
仕事というのは「合理的なシステム」で、定年を迎え70代になってくると、「なんのために働いてきたんだろう」「仕事していない俺なんて、誰も必要としていないんじゃないだろうか」という孤独感を持つ男性が多いそうです。
本書の前半では、「老後の孤独の正体」を明らかにし、私たちを支配する「考え方のクセ」について解説しています。ポイントは以下の通りです。
◆ 孤独感とは「人と交わりたい」という思いが満たされない苦しさ
◆ 孤独感は健康問題のうち「精神の問題」に影響を及ぼす
◆ 男性は社会に生きがいを求めるけど、外に出る人はわずか
◆「認知」と「行動」に注目して、それらとうまくつきあえるようにする「認知行動療法」を活用する
◆「ヨコの人間関係」を築くのは難しい
◆ 自分のスキーマ(人生観)に気づく
◆ スキーマから派生する無意識の「自動思考」
◆ 自分の感情に気づく方法である「マインドフルネス」
この本の中盤では、「親密なヨコのつながり」を築く方法が次の通り紹介・説明されています。
◆ マインドフルな状態になって本音に気づく
◆ 親密性の四段階(④会うならグループで、③1対1で会う、②相談やお願い事ができる友人、①親友)を理解する
◆ 親密度を高めるには、次の親密レベルに向かう行動へと変化を起こす
◆ 対話して関係を続ける
本書の後半では、自分で自分を評価する生き方について考察しています。私が共感する主なポイントは以下の通りです。
◆ 定年後は自分を評価してくれる人はいない
◆ 自尊感情の四段階(➀自尊心の低い段階、②条件つきの自尊心、③無条件の自尊心、④自尊心を問題にしない)
◆ なりたい自分を明確にする(内発的動機に気づく)
◆ 自分に親切になる
また、とくに大切なこととして、「セルフ・コンパッション」(=自分に対する慈悲、自分への思いやり)を上げています。興味ある方はぜひ、著者の中島さんが翻訳を担当したティム・デズモンド著『セルフ・コンパッションのやさしい実践ワークブック』(星和書店)を併せてお読みください。
この本の最後で著者は、「老後を自分らしく生きたいのなら、今のうちからそう生きよう」と述べていて、これが本書の裏テーマです。
あなたもこの本を読んで、心理学が明かす「老後不安と孤独の正体」を学び、認知行動療法の視点から自分で自分を評価する生き方を実践してみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!【2495日目】