「時代の変遷とともに死に対する事態も変化を遂げています。そのひとつが高齢化です。」「高齢者はいかに死を迎えればよいのでしょうか。老衰の果ての死に対して、医療はどのようにかかわるべきかが、これからの課題です。」と述べている本があります。
本日紹介するのは、慶應義塾大学医学部卒業、ドイツのフェルディナンド・ザウアーブルック記念病院で血管外科医として勤務、帰国後、東京都済生会病院を経て、2005年より世田谷区立特別養護老人ホーム「芦花ホーム」に常勤配置医として勤務する石飛幸三さんが書いた、こちらの書籍です。
石飛幸三『「平穏死」のすすめ 口から食べられなくなったらどうしますか』(講談社文庫)
この本は、特別養護老人ホームの常勤配置医が介護現場の最前線から、延命治療の限界と人としての安らかな最期を考えるための提言をしている書です。
本書は以下の6部構成から成っています。
1.ホームで起きていたこと
2.高齢者には何が起きているのか
3.なぜホームで死ねないのか
4.私たちがしたこと
5.ホームの変化
6.どう生きるか
この本の冒頭で著者は、「我が国では、老衰の終末期においても病院で亡くなる方が80%に及びます。同時に胃瘻(いろう)を付けてホームに帰って来て寝たきりになる人が増えます。この状態は世界で際立って多く、我が国の医療費高騰の原因の一つになっています。」と指摘しています。
著者が常勤配置医として勤務する「芦花ホーム」のような特別養護老人ホームには、そうした平均90歳で、その9割が認知症という入所者が並んでいて、初めてその光景を見たとき、著者は言葉に言い表せないほど驚いたと言います。
かつて病院で手術をして命を助けた方々もいて、「人間こうまでして生きていなければならないのか」「これまで幾多の苦難に耐え、それを乗り越えてきた人生、その果てにまたこのような試練に耐えなければならないとは」という正直な気持ちです。
著者の石飛さんがホームで見た現実は、以下のような経緯をたどってきた方々です。
◆ 人間は本来、口から食べるものでエネルギーを得て生きている
◆「口から食べられなくなる=死」というのが普通の老衰死
◆ 老人の孤独死が問題とされるようになり、そうした老衰死に対する家族の抵抗が出てきた
◆ 太い静脈への点滴で、高濃度ブドウ糖液や栄養剤を入れる「高カロリー輸液」という、口から食べないでみ生きる
◆ 胃瘻(胃の内側と外側から外科的に管を通し、宇宙食のような流動食を入れる方法)によって、意識がないまま寝たきりで生きる
◆ 上記のような病気の時の応急処置が、老衰の場合の延命治療に使われるようになった
◆ 認知症になると、食べ物を飲み込む際に誤って気管に入る「誤嚥性肺炎」が急増する
◆ 胃瘻などを付けて経管栄養に切り替えた際に、胃に入った流動食が食堂を逆流し、喉まで戻って誤嚥する、もうひとつの「誤嚥性肺炎」
◆ 認知症の人は、「もう食べることはしたくない」「延命治療はいらない」という意思表示ができない
本書の後半では、ホームで死ねない現状と、そうした現実の中で著者たちがしてきたことを紹介し、ホームでの変化について説明しています。ポイントは以下の通り。
◆ 肺炎を防ぐため、過剰な栄養や水分を与えない(経管栄養は避ける)
◆ 口腔ケアを推進
◆ ホーム職員の意識改革
◆「何もしないで看取る」ことが看護師、介護士の目標
◆「看取り介護」のポイントは相談員
◆「口から食べられなくなったら、もう先が長くない状態である」という基準
この本の最後で著者は、外科医としての役割について記しています。それは「どう生きるか」を発信していくことで、「安らかな最期を」という「平穏死」のすすめです。
形だけの「人命尊重」ではなく、一人ひとりの人生をきちんと考え、どのように「人生の終焉」を迎えたいのかを考えることだと言います。
あなたも本書を読んで、「口から食べられなくなったらどうしますか」という素朴な問いかけについて考え、「平穏死」というコンセプトを生き方として選択の中に入れてみませんか。
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では、今日もハッピーな1日を!