増田寛也氏は、1951年生まれで東京大学法学部を卒業して建設省に入省、1995年から2007年まで3期にわたり岩手県知事を務めた。2007年から2008年まで総務大臣となった。
本書は、日本の少子高齢化が極端に進む現在の状況が当面は継続し、やがて人口急減社会に突入するという警鐘を鳴らす書だ。国の将来ビジョンを描く際に、まず把握しておかねばならないのが人口動態であり、産業政策・国土政策・雇用政策・社会保障政策など、あらゆる政策は将来人口の行く末に大きく左右される。
日本は2008年をピークに人口減少に転じ、これから本格的な人口減少社会に突入する。2010年に1億2,806万人いる人口が、2050年には1億人を切って9,708万人になると予測されている。さらに今世紀末の2100年には4,959万人と現在の4割の人口にまで減ってしまって、これは明治時代の人口水準だ。
人口数を維持するのに必要な出生率を 「人口置換水準」 というが、2012年現在で2.07といわれている。現在の合計特殊出生率(一人の女性が一生に生む子供の平均数)は1.43なので、人口維持には程遠く、将来人口は約7割に減ってしまう水準だ。
それに加えて、第二次ベビーブームの時に生まれた女性が、最も若い層で39歳になっているため、今後は出産適齢期の女性の数自体が急速に減少していく。たとえ出生率が回復しても、人口を維持・増加に転換していくことは今後数十年間、不可能なのだ。
日本の人口減少は次の3段階のプロセスを経て進んでいく。
1.2040年までの 「老年人口の増加+生産・年少人口の減少」という第一段階
2.2040年~2060年までの 「老年人口の維持・微減+生産・年少人口の減少」という第二段階
3.2060年以降の 「老年人口の減少+生産・年少人口の減少」という第三段階
とくに、2040年以降は、老年人口の増加がなくなるため、日本の人口減少が本格化していくことになる。現在は実感できないかも知れないが、これはほぼ間違くなく的中する、きわめて精度の高い予測だ。
さらに問題を深刻にしているのが、大都市(とくに東京圏)と地方における人口移動とそれに伴う人口格差だ。現在、大都市や地方中核都市は上記の第一段階にあるが、地方の多くでは上記の第二または第三段階にすでに入っていて、人口減少は本格化している。
本書では、人口が東京一極に集中する社会を 「極点社会」 と名付け、その生成プロセスとリスクを説いている。地方からの人口流入が続く限りは、東京圏では人口減少の実感もないが、実は高齢化が急速なスピードで進んでおり、やがて人口が極限まで減った地方からの人口流入が止まった時、東京圏でも人口の急減が始まる。
著者の増田氏は、政策提言機関である 「日本創成会議」 のもとに 「人口減少問題検討分科会」 を設置して、2014年5月に、独自の将来推計人口に基づいて、896の 「消滅可能性都市」 を発表し、これが大きな反響を呼び起こした。
本書は、著者の増田寛也氏を中心とするグループが研究した2013年に 『中央公論』 に掲載した論文をベースに、対談なども加えて構成していて、以下の10部に分かれている。
1.人口急減社会への警鐘
2.極点社会の到来
3.求められる国家戦略
4.東京一極集中に歯止めをかける
5.国民の 「希望」 をかなえる少子化対策
6.未来日本の縮図・北海道の地域戦略
7.地域が活きる6モデル
8.対話篇1 : やがて東京も収縮し、日本は破綻する
9.対話篇2 : 人口急減社会への処方箋を探る
10.対話篇3 : 競争力の高い地方はどこが違うのか
さらに、巻末には 「おわりに」 と題して、「日本の選択、私たちの選択」 が知るされ、参考文献、メンバー紹介、全国市区町村別の将来推計人口が掲げられている。
現在、安倍政権では 「少子高齢化問題」 に真剣に取り組んでおり、それはまさに人口急減が大幅な国力の低下に繋がるという危機感が、あらゆる層に共有されてきたからだろう。そのキッカケを作った報告書のすべてが本書には整理されている。
将来予測をビジネスとして行う全ての人々に、必読の書として本書を推薦したい。