中尾政之氏は、東京大学大学院修士課程を修了後、日立金属に入社し、磁気材料の研究に従事した。その後、米国の会社への出向などを経験し、2001年より東京大学大学院教授・工学博士。
また中尾氏は、失敗学のエキスパートとして新聞、テレビなどのメディアで活躍している。失敗学に関する著書も多く、本書もその系列にある書だ。
著者によれば、人間は必ずミスをする動物であり、しかも同じような失敗を繰り返す。まったく同じミスではなく、「同じような」 ミスであるのがミソだという。
1件の重大災害の裏には29件のかすり傷程度の軽災害があり、さらにその裏にはヒヤリとしたりハッとした300件の体験がある、と言われる。
これは失敗学では有名な法則で、「ハインリッヒの法則」 と呼ばれる。別名、「1対29対300の法則」 と言われ、1929年にアメリカの損害保険会社のハインリッヒ氏が労働災害5000件を分析して導いた経験則だ。
つまり、どんなミスや事故も共通ルールにしたがって起きており、その共通ルールを常に頭に入れておけば将来の失敗や事故が未然に防げる、ということだ。
まさに、「愚者は体験(自分のミス)に学び、賢者は歴史(他人のミス)に学ぶ」 という、喩えの通りということだ。小さなミズをしたときは、「おごるな、隠すな、我が身を正せ」 の精神でいけばよい。
本書は、中尾氏による 「ミスをせずに完璧な仕事を実現する20の黄金ルール」 を紹介した書だ。ミスをしない思考法とは、以下の20法則だ。
1.人の失敗は 「最高の教科書」 になる
2.「大丈夫」 と思ったときこそ、丁寧に動く
3.失敗は隠すと10倍返しを食らう
4.「まさか!」 を芽のうちに摘み取る
5.自分勝手な 「カイゼン」 は命取りになる
6.小さなクレーム無視が 「地雷源」 になる
7.「いつもと違うところ」 にミスは起きやすい
8.「あれもこれも」 と欲張ってはいけない
9.非常時に、「人の上に立つ器」 が試される
10.「逃げも隠れも嘘もない」 姿勢を示す
11.コストよりも信用を優先させる
12.根拠のない 「期待」 は、徹底的に排除する
13.「引き際」 を見極めなければ、取り返しがつかない
14.常識にしがみつくと、本質を見失う
15.「イチかバチか」 のギャンブルに乗らない
16.今日のミスが、明日の大成功に変わる
17.「マニュアル」 はいつも破られるためにある
18.成功事例を追いかけると、かえって危険
19.「いい人」 と 「お人よし」 は、トラブルメーカー
20.新しい視点で、「大きな新天地」 が開ける!
本書の最後で、中尾氏は 「成功をつかむことが、失敗学の最終目的」 と述べている。すべて、納得できる法則であり、著者の結論だ。成功を目指す全ての方々に本書を心から推薦したい。